ニンジンとリンゴどっちにする? 究極の命題

うみ

第1話 究極の命題

 ニンジンとリンゴ。どちらにすべきか。

 空から急降下し、ささっと足で掴めばかっさらえる。

 柱の上にとまったカモメは鋭い目つきで獲物を睨んでいた。

 間抜けにもベンチの上にカゴが忘れられていて、その上にニンジンとリンゴが残されていたのだ。


「くああ」


 悩ましい。カモメは力なく鳴く。

 彼はお店の中にだって入ったことがある。のっしのっしと堂々と歩き、人間が自動ドアを開いたらそのまま中へ。

 菓子袋を嘴で挟んだら、「ぐばばばば」と華麗に立ち去る。

 盗めぬものはない。

 カモメはそう確信している。しかし、これまで彼が盗ったものは一つだけ。

嘴で咥えるか、足で挟んで逃走する。


 ニンジンもリンゴも欲しい。

 それが彼の素直な気持ちだった。それ故に悩む。

 甲乙つけ難い。


「くあ!」


 悩んでいると、ベンチによじ登った茶色いずんぐりとした生き物が彼の目に映る。

鋭い歯としゃもじのような尻尾を持つそいつはビーバーだった。

 っち。ビーバーに取られる前にどっちか一方だけでもとっておけば……。

 しかし、ビーバーも口で咥えて持ち去るつもりなのだろう。

丁度いい。どっちにするか決めかねていた。残り物というのは癪だが、決められない   「自分が悪い」と。

 そう自嘲するカモメだったが、事態は急展開する。


「びば」


 思った通り、口でリンゴを咥えるビーバー。

 しかし、ビーバーの攻勢はこれだけで終わらない。

 なんと前脚でニンジンを掴み、ズリズリと歩きだしたではないか。

 二刀流! なんと、ビーバーは口と前脚を同時に使う二刀流だったのだ!


「く、くあ……」


 二刀流恐るべし……カモメはビーバーを放置したことを後悔した。

 そんなカモメをよそにビーバーはしゃもじのような尻尾を引きずりながら立ち去って行く。


おしまい

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