第5話めぐみの思惑

翌日は昨日に増して右足が痛み、びっこを引いて会社に向かった。

既に中川は、書類整理を始めている。

微妙にニンニク臭い。

「オイッスー、元気がないな!もいっちょ、オイッスー」

五島監督は、ご機嫌だ。

「よっ、平松の旦那」

「昨夜は、ご馳走さまでした」

五島はニンニクの匂いをプンプンさせながら、

「ド新人が、まさかね~」

「すいません。課長には黙っていて下さいっ」

僕は懇願した。

「い、今のうちに現場に向かって下さい」

「やだね。課長にチクるよ!」

「そんな~」

「不正はいけません。君も仕事を始めなさい

しばらくすると、

「雨は~降る降る、人馬は濡れる~越すに越されぬ田原坂~」

羽弦課長が現れた。

「よっ、みんな、やってっか?……誰かニンニク食ったな!くせ~な~。誰だ?」

中川が口を開く。

「五島監督と平松さんです」

な、なんだと!くそ女!お前がニンニク食ったじゃねーか?

五島は課長に耳打ちした。

「な~に~?ほんとか?平松」

僕は覚悟を決めた。

「はい」

「ま~、平松落ち着け。現場が楽しそうに見えるのは分かるが、君は総務課なんだから、そっちをメインに頑張ってくれよ!」

「はい?」

「まあまあ、課長、平松もたまには応援で作業課に来てもいいだろ?」

「慣れたらね」

僕は五島監督と目があった。五島はコクリと頷き現場に向かった。


僕はびっこを引きながらオフィスを歩き回った。

「平松、どうした?痛いのか?」

と、不安げに課長は僕に声を掛けてきた。

「ちょっと、痛いというか、すごく痛いです」

「中川君、君が病院に連れて行きなさい。責任が君にはある。」

「平松、休みが必要なら休んでいいぞ」

「はい、ありがとうございます」

2人は病院へ向かった。

道中、2人は喋らなかったった。30分が倍以上の時間に思えた。

産業医に診てもらうと、化膿していた。抗生剤と、昨日よりガッチリ右足を保護され、松葉づえを使う事になった。


病院帰りの道中、メグちゃんは僕にずっと謝り続けた。そして、昨夜の事も。

「メグちゃん、そんなに気にしなくていいよ」

「だって、ケガさせたのはわたしだし。昨日はごめんね」

僕は、タバコに火をつけて煙を思い切り吸った。

「メグちゃん、昨日僕をハメタよね?」

「うん」

「だけど、五島監督と作業員とは仲良くなれたから、良かったかも」

中川は赤信号で止まり、タバコを吸い出した。

「わたし嫌われてるでしょ?」

「……そんな事ないよ」

「タカちゃん、優しいんだね。共通の敵を見付けたら、力を合わせるでしょ?」

「えぇ~、それであんな事言ったの?」

「うん」

「 メグちゃん、それはいけないよ!会社に居場所が無いんじゃない?」

中川は灰皿にタバコを押し付けた。


「わたしは、誰にも必要とされてないんだ。家と会社の往復だけ。出会っても必ずお別れがくる。男なんて信用できないんだよね。作業課のみんながわたしをボロクソ言ったでしょ?」

僕は缶コーヒーを飲みながら、

「そんな事誰も言わないよ」

「ありがとうタカちゃん。わたしのために嘘ついてくれて」

中川は涙を流していた。

僕はこの涙をどう解釈すればいいのか悩んだ。

「もう、会社に着く頃には定時だから、一緒に帰ろうよ。今夜は石田屋のとんちゃん。どう?行かない?」

中川は少し考えて、

「じゃ、行こっか」

会社に着くと羽弦課長は驚いた。

「平松、松葉づえ……大丈夫か?しばらく休むか?言いたくねえが労災ってことで。一週間休め」

「はい、ありがとうございます」

「2人とも定時だから、帰っていいぞ」

課長は競馬新聞を読んでいた。

歩くのが大変なので、会社から離れた場所から2人でタクシーに乗り込んだ。

敵は、石田屋にありっ!




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