10

 コンテストの結果を聞く前に、3人は校舎を後にしていた。完敗だ。間違いない。オーディエンスの反応で間違いないと悟った。


「皆……」


 ルイが冠城のもとに駆けてきた。


「お疲れさま、凄くいい曲だったよ」

「……でも、だめだ」

「んなしょぼくれてどうすんねん?」

「あんなのを聴かされたら、自分のスキルがどんだけのものか……」

「でも、あたしには【FLY】の曲が最高だと言えるよ」


 錠児はありがとさんと告げる。


「有難う、ルイちゃん。でもおれはもう、潮時だと思う」

「憲誠……」

「卒業したら、やりたい事ができたよ」

「?」

「でかいマグロ、釣ってやるんだ」

「そっちかい!」


 加須田は冠城に言った。


「卒業までは、おれもこの学園にいる。銀さんと錠児は、諦めないでくれ」

「惜しいって憲誠!音楽続けようや!」

「おれにとっちゃ、もう音楽よりマグロなんだ」


 ルイは冠城に言った。


「意思は堅そうだよ」

「憲誠……」

「そうか、ならしゃあないな」



 そうして、幾年が過ぎた。成人した3人が集まったのは、卒業以来初めてのことであった。


「銀さん……」

「憲誠、変わってないなぁ」

「皆変わってへんって。俺なんかまだギター弾いてるしな」

「あぁ、俺はあれからルイと結婚した」

「だろうなぁ、やっぱりな」

「あれ?憲誠……」


 加須田は懐かしい物を担いでいた。


「弦なら、まだ張ってないんだけどね」

「憲誠……」

「マグロなら、もうでかいの釣ったし」

「んで、なんで俺らここに?」


 母校の校門の前で3人を待っていたのは、購買のハリーさんだった。


「皆さん、お揃いで」

「何をしたいねん?お前」

「オレですか?オレはただ、祭りが好きなだけですよ」

「はぁ?」

「生徒が、待ってますよ。中で」


 ハリーさんは3個のパンを手渡す。


「なんやねん?これ」

「オレなりのロックの形ですよ」

「お前は……」

「オレはあの日、MVMになった。同時にこの学園に因縁を作った。形はどうあれ、オレはオレなりのロックを、この学園にぶち込んでいくだけです」


 にやりと笑ったハリーさんを見て、冠城はふんと鼻を鳴らす。


「んで、今年のMVMは?」

「中で待ってます。伝説の【FLY】の演奏が聴きたくてね」

「待って……おれ、これに弦張ってないけど……」

「それなら、ほれ」

「さすがや銀さん、カリスマ楽器屋!」

「今後とも御贔屓に。南房総にも配達しますよ~」

「ははっ、言うねぇ」


 冠城が放ったベースの弦を手にすると、加須田はにっこりと笑った。


「行くぜ」

「あぁ」

「腕が鳴るわぁ」


 卒業前に交わされた掛け合いだ。卒業以来潜ることがなかった校門を、3人は再び潜っていった。

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