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「はい!有難う御座いました!なかなかファンキーなベースラインのバンドでしたねぇ」
教頭が言う。正直、高校生レベルの荒々しさが抜けないバンドばかりだ。それが高校生バンドの醍醐味ではあるが、【FLY】に関してはそう言うレベルとは一つ二つスキルが飛び抜けている。正確無比なリズム感の冠城に、ブルージーな錠児のギターサウンド、ウネるベースラインを紡ぐ加須田のウッドベースと、双局を成す錠児と加須田の声。
「次のバンドは、新人の、なんと中学組からのエントリー!【BUDDY HARRY】だ!」
ざわつく中、壇上になかなか上がってこないハリー、代わりに上がってきたのは、同級生の男子生徒だった。
「あの、ハリー君は今腹痛が痛いからって、トイレに行きました」
「おい!」
「腹痛が痛いからって何やねんそりゃ!」
「そこ突っ込むか?」
そんな中、次のバンドとして名乗りを上げるのは、前回前々回のMVMである【FLY】だ。完全にリラックスした状態で3人は壇上に上がった。
「皆、おれらは今回で卒業だ」
「せやから、最後にぱっと花を咲かせたるで!今回の曲は憲誠が魂込めて作った曲や、泣けるから聴けよ!」
曲名を告げ、加須田がイントロのベースラインを爪弾く。静かでなおかつ存在感のあるベース。そこに鳴るのは枯れたサウンドの錠児のギター。録音した加須田のピアノ。スロウなグルーヴを紡ぐ冠城のドラムス。
生徒は目を潤ませていた。テンションが上がるロックナンバーとは違う、心を軋ませる曲だ。
「有難う、まだ最後のメンバーがいるから、楽しんでってね」
「じゃあな!」
3人はステージから降りる。すれ違うのはハリーだった。
「お前なぁ、トイレくらい我慢せんかい」
「仕方ないですよ、オレも緊張してたんですから」
「メンバー、待ってるんじゃないのか?」
「メンバー?あ、大丈夫です。どうにでもなりますから」
「?」
「んじゃ、そういう事で」
ハリーはステージに上がっていった。冠城は錠児に言う。
「折角だから、聴いてこうぜ」
「せやな」
「気になるしな。あいつがどんな曲を鳴らすか……」
その瞬間、ステージが暗転した。ざわつく生徒達。
破裂音の連打のようなリズムが響く、そこから聞こえてくるブラストビート
「【ガーディアン】だ。覚悟しな」
ハリーが言う。ステージいっぱいをカオスにするような爆音、ギターともベースとも分からないサウンドを、コンソールのような物を操作しながらDJのように奏でる。
「なんだこりゃ……」
「……こいつぁ……」
ステージの下の生徒達はモッシュピットを作っていた。一種のレイヴのようなその光景、鼓膜と心臓を乱打するようなビートに、3人は顔を見合わせて言った。
「……これ、アリか?」
「アリかナシか、そないなもん関係あらへん」
「こりゃ、おれには作れないよ……」
「俺だって無理や。銀さん……」
「……」
冠城は微かに笑っていた。同じく錠児も。唯一、加須田だけは呆然と、そのサウンドの波をただただ感じていた。
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