「へぇ、面白い子じゃない?」


 ルイはアイスティーにガムシロップを足してくるくると混ぜながら冠城に言った。普段は目が大きくてネコ目であるルイは初対面ではきつそうなイメージを持たれてしまうが、目を細めてくしゃっと柔らかな顔で笑う。冠城はそのギャップがたまらなく好きなのだ。


「逆に、めちゃめちゃ凄い曲作ったりしてね」

「そこなんだよなぁ」


 冠城は首を傾げながら言う。


「もし、もしよ。あの新入生のハリーって奴がホントに凄い奴だとするよ?俺とか錠児は構わないんだよ。あいつもあんな奴だし」

「あ、八剣くんね?確かにね」

「問題は、憲誠なんだよな」


 錠児も加須田も、曲を作る。腕前も確かだし、音楽に対する情熱も同じ。楽しんで作っている。作風はやや違えど。

 問題は、プライドの問題だ。勝敗に大して拘らないのが錠児のポリシーだが、加須田に関してはいくらか違う。曲に並々ならぬ感情を乗せる。大敗を喫したとなると、人一倍センシティブな彼は立ち直れなくなってしまうかもしれない。


「でも、そこは皆の腕前じゃない?」

「ん~」

「八剣くんが作ろうが、加須田くんが作ろうが、【FLY】ってバンドの曲である事は変わらないじゃない?」

「そうだけどさぁ」

「らしくないよ。銀さん」

「え?」

「だって、冠城くん、バンドじゃ銀さんって呼ばれてるでしょ?」


 冠城は顔をやや歪めて笑った。


「もう2回もMVMを獲ってるんだから、自信もちなって。もしハリー君がホントに凄いコだとしたら、相手が悪かったってことよ」

「そこなんだよ。憲誠は1年に負けたってなったら……」

「負けた負けたって、負ける前提で話してる」


 ルイは言った。


「そこ、銀さんのよくないとこだよ」

「……ルイ……」

「おっ、誰や思うたら、銀さんとルイちゃんやないかい?」

「すまない、デート中」


 ギターを背負った錠児と加須田がファミレスにやって来た。


「茶でもしばきに来ようやって、憲誠と言いよったんや。気にせぇへんといてや」

「ごめんな。せっかく……」

「いいんだって。俺も彼女とはだいたいバンドの話ばっかだから」


 ルイも聖ML学園の生徒。彼女もガールズバンドでドラムを叩いている。


「今回は、あの新入生の話よ」

「お、あのおもろい奴のな」


 鬼太郎ヘアの新入生の話はほどなくして全員に知れ渡った。何がとは言わないが、ヤバい奴が来たという噂が飛び交っている。


「でも、あいつバンドやる仲間とかいるのかなぁ……」

「クセ、強めだからなぁ」

「案外、何でもできて打ち込みとかやったりして……」

「だいぶハリーの情報が一人歩きしちゃいそうだなぁ」


 いつの間にか4人になった集まりは、ハリーの妄想で何倍にも話が膨らんだ。外を見た時、既に陽は沈んでいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る