スタジオの中には和やかな空気が流れていた。錠児が作った曲がアンプごしにメロウな雰囲気を醸し出す。それをアレンジする作業に3人は入っている。


「ここはこのドラムのパターンでいいかな?」

「いいよ銀さん、さすがだよ」

「ここにコーラス入れる?」

「いや、そこ一人でもいこうや。憲誠センセにお任せや」

「ちっとおれにはキー低めだけど、まぁいいか。オッケー」


 アレンジ作業中、いきなりスタジオのドアが開いた。


「おい、誰やねん。スタジオまだ開いてるやろ?」

「あの、MVMさんですよね」

「そうだけど、君は……」


――あの時の鬼太郎ヘアだ。


「挨拶しようかと思いまして」

「あのなぁ、おれたちが何してるかわかってんのか?」

「勿論」

「ならあとにしてくれよ」

「新曲が聴きたかったんですよ」

「お前なぁ、聞こえへんかったんか?あとにせいっちゅうてるやろ?」

「まぁ、いいじゃん錠児、憲誠」

「……銀さん?」

「君、中学組だろ?名前は?」

「名乗る程じゃないんですけど……ハリーって呼んでください」


 錠児はぶっと吹き出した。


「はっ、は、ハリーやて!クレイジーな奴やなぁ」

「いや、それ程でも」

「褒めてへんっちゅうねん!で?曲聴きたいんか?」

「はい、アレンジ途中でもいいですから」

「いいだろ?」

「しょうがないな」

「ええやろ。おい中坊、心して聴けや」


 錠児のカッティングギターから始まる曲は、ややバラードよりのブルース調の曲だった。歌詞はまだついていないのか、錠児は適当な英語で歌う。


「どや」

「流石ですね。やっぱりMVMは次元が違う」

「ハリーは他のバンドの曲は聴いたのか?」

「えぇ、一通り。でも……」

「?」

「コレってバンドはなかなかいないですね」


 なかなかの強気な口調だ。


「この学園って、コンテスト以外に皆の曲を聴ける機会、あんまりありませんよね?ライブハウスとかでもなかなか行けないですし」

「なるほどな」

「もっと皆の曲を披露できる場を作ればいいと思いませんか?例えば【野試合】と銘打ったミニライブとか」

「おもろい奴やなぁ。学園長に直談判せい」


 なるほどねぇ、とハリーは頷きながら言った。


「オレ、次のコンテスト出ようかなって思うんですよ」

「え?コンテストに?」

「お前が?」

「そうですよ」


 ハリーは真剣な顔で言った。相手は中学生だ。高校生だらけのコンテストにまさか中学生が入ってくるとは……


「コンテストには、軽い予選会があるんだけど」

「はい、分かりますよ」

「甘く見るなや小僧」

「えぇ、でもまぁ、そういう事でよろしく」


 ハリーはそれだけ言うと礼を言って出て行った。

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