冠城、加須田、錠児が3年生になった日、程なくして新入生が聖ML学園に入学してきた。1年生の時と同じく、今年も校歌を演奏するのはMVMになったバンドである。

――そもそも、校歌とは言ってもガンズアンドローゼズのWelcone to the jungleな訳なのだが……

新入生に祝辞を述べる学園長、その後に校歌斉唱となるが、ステージの壇上に上がる3人に、刺さるような目線が浴びせられる。中でも、1人だけ妙に異彩を放つ新入生がいた。

 片目が前髪で完全に隠れた鬼太郎ヘアに、肌が荒れてそうな色白、痩せ型の眼光の鋭い少年。大体の生徒の胸元にはネームが付いているのに、彼にはなぜかなかった。


「皆、MVMの【FLY】だ。皆短い学校生活、楽しんでこうぜよろしく!」


 加須田の後、シンバルを鳴らす冠城。わっと湧く歓声の中、滅茶苦茶冷めた目で鬼太郎ヘアは見ていた。


「いくぞ、錠児」

「いぇぁ!」


 ギターのリフを掻き鳴らす錠児。相変わらずステージの下からは千枚通しで突き刺すかのような鬼太郎ヘアの目線。

 演奏が終わると、一礼をして3人はステージを降りた。直ぐさま冠城が口を開いた。


「おい、感じたか?」

「……あぁ」


 加須田は頷く。いわば攻撃のそれに近い目線だった。調子を狂わされた訳ではないが、何か異質な感覚。今までの学園の生徒とは違う何か……


「よぉ、お前らも気になったか」


 学園長のレミーが口を開いた。テンガロンハットを被っているが、彼においては完全にハゲ隠しだ。ついでにカツラである事は言わずともバレている。


「あいつ、なかなかだぞ」

「中学組でしょ?」

「そうなんだが、あいつは実は…試験を受けなかったんだよ」

「え?何で?」

「それは俺もよくわかんねぇんだよ。しかも名前もよくわからねぇ」

「不気味な奴ですね……」

「あぁ、まぁでもあいつはタダ者じゃねぇ。俺のロック人生の中で存在にシビれたのは、レミー・キルミスター以来だ」


 そりゃそうでしょう。影響受けまくりでしょう。学園長は手をひらひらと振りながら戻っていった。

入学式には似つかわしくない、ウォレットチェーンをじゃらつかせながら。


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