どうしてもサブウェイが食べたいと言う加須田の要望により、3人は放課後、サブウェイに向かった。3人は顔を突きあわせ、オランジーナで乾杯をした。


「俺、どうしてもこの学校に入りたかったんやけど、やっぱりこの学校、ファンキーやなぁ」

「だよなぁ。だって入試にロックに関する問題しか出ないのって、うちしかないよなぁ」

「学園長からして、パンチ効いてるからなぁ。レミー学園長だよね。明らかにMOTORHEADのレミー・キルミスターを意識したフォルムって……」

「錠児って、やっぱりチャック・ベリーとか好きなのかな?」

「音楽ならなんでも好きやな。オールドロックって言ったらやっぱりチャック・ベリーやからなぁ」


 えびアボカドを齧ると、錠児は訊いた。


「憲誠は、何か意識してるのってあるんか?」

「おれはスティングかなぁ。ウッドベース弾きながら歌うのはスティングを意識してるかな」

「なるほどなぁ」

「バンドやるならさ、皆の音聴かないとさ」

「だな。なら寮に帰ったらスタジオな」


 聖ML学園は全寮制になっている。ロックの為の学校である為、その寮には寮生なら使い放題のスタジオが設けられている。5分前行動をモットーとしている冠城は、一足先にドラムセットのチューニングを行い、念入りにストレッチをする。


「ちーす」


 加須田が入ってきた。身の丈ほどもあるウッドベースのケースを開き、紫色のドット絵のような丸型のステッカーの貼ってあるベースを取り出す。


「やっぱ凄いな、ウッドベース」

「エレキベースも勿論いいけど、やっぱこの音の深みには敵わないな」


 マイクスタンドを調整し終わった頃、錠児がハードケースに入れたギターを持ってやって来た。やはり彼はハンチング帽を外さない。


「帽子、脱げば?」

「わかってへんなぁ。これがないと俺やないんや」

「……まさか……」

「ちゃうわ!ほら!」


 あっさりとハンチング帽を脱いだ錠児。結構なくせっ毛だ。これが少しコンプレックスなのだろうか。


「やろうで、早く」


 錠児はケースを開き、ホワイトファルコンを取り出す。シールドをアンプ直に差し込むと、マイクスタンドを前に発声練習を始める。


「とりあえず、合わせてできる曲はあるか?」

「せやなぁ……あ、イーグルスなんか?」

「HOTEL CALIFORNIAだな」

「決まりや」


 錠児はイントロのアルペジオを鳴らしはじめた。やや枯れた音だが味のあるサウンド、ウッドベースのグリッサンドを加須田が決めると、冠城は気分が乗ってきた。


「どっちが歌う?」

「ホントやったら、ドラムやけど」

「いや、俺はいい」

「憲誠、頼むで」

「はいよ」


 ドラムのタムを鳴らすと、加須田がマイクに向かって歌い出した。

 スティングのようなクリアーな声だ。錠児のハスキーな声とやや相反する声だが、力強さでは錠児も加須田も同等だ。

 錠児のリードプレイも、高校生とは思えないくらいに渋みのあるプレイだ。冠城のドラムもスロウなグルーヴのツボもしっかり押さえている。


「いやぁ、やっぱいいねぇ」

「そやな、気持ち良かったなぁ」

「そうだ、バンド名、何にしようか?」

「そうだねぇ……」


 冠城はくるくるとドラムスティックを廻しながら、口を開いた。


「なんかこう、バシッとシャープな奴がいいよな」

「なんかポリスとか、シカゴとか……」

「あ~、にしても腹減ってきたわぁ」

「いきなりかい錠児。あんな食ったのに」

「今日の晩御飯、エビフライらしいで」

「どんだけエビ好きなんだよ?錠児」

「……それ」


 冠城は錠児をドラムスティックで差した。


「……エビ?」

「違う、そっちじゃない」

「……フライ?」

「そう、【FLY】」

「おぉ、ええんちゃうん?」

「なるほど、いいねぇ」


 錠児と加須田はにっこりと笑って言った。


「決まったな。俺たちは【FLY】だ」

「よっしゃ、そうと決まったら飯食べにいこうや!」

「だな、なんか腹減ってきたぜ」


 バンド名はあっという間に決定した。【FLY】。これが聖ML学園の伝説になるようなMVMバンドとなるのである。この頃の彼等には、露ほども思っていなかったのだろうが……

 

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