――今年のMVMは、2年連続の快挙!2年生の冠城、加須田、八剣による3ピースバンド、【FLY】だ!

 高らかに言ったのは教頭だ。この聖ML学園のシステムはちょっといかれている。何せロックを愛してさえいれば入学できる。毎年この学園で最強のバンド、通称MVMを拝命されれば、ありえないくらいの名声はおろか、学費も免除、うまくいけば有名なレーベルからのお声もかかると専らの噂である。

 2回目になると、やや余裕すら見せる表情で結果を受け入れ、八剣錠児はトレードマークである白いハンチング帽の鍔を摘まんでにやりと笑った。


「リーダーの、冠城くん。今の気持ちは…」


 冠城銀驍は照れくさそうに目を細めた。向けられたマイクに顔を近付けると言った。


「まさか、2年連続でMVMになれるなんて。皆さんと、あと今回の曲を作ってくれた憲誠に、錠児のお陰ですよ。有難う」


 謙虚に言う冠城を肘で押すと、加須田憲誠はウッドベースのヘッドを手にしてくるりと回した。


「さて、今回の曲を作ってくれた加須田くん、おめでとう!」

「おれはただ、曲を作っただけです。あとはメンバーのスキルとセンスのお陰です。でも、有難うございます。これからも頑張ります」


 手を挙げて加須田は応えた。長身で爽やかなルックスの加須田には女性ファンも多い。


「ギターとボーカルの八剣くん、今回の感想は?」

「ま、俺が作った曲だろうが、銀さんが作った曲だろうが、憲誠が作った曲だろうが、俺らが演奏して歌えば間違いなくこうなったやろ。な?皆!」


 錠児はややビッグマウスなキャラである。しかしその後少しだけ恥ずかしそうな顔をする。それを見て【調子乗りやがって~】なんていうやり取りも彼等の名物である。

 MVMの2年連続受賞は、当時、未だかつて誰もなし得なかった快挙だ。3年連続となれば間違いなく伝説になる。

 なりやまない拍手の中、3人は階段を降りて、小さくガッツポーズをした。


「やったな」

「いやぁ、ヒヤヒヤしたよぉ」

「余裕な顔しとるやないかい、憲誠」

「またまた、そんな……」


 校舎の外に出ると、MVMの周りは人だかりができる。パワフルなドラムスキルを持つ冠城の周りにはバンドでドラムを叩く生徒が集まり、錠児の周りにはギターとボーカルをやっている生徒。加須田の周りにはボーカルと、女子生徒がわんさか集まる。


「最高のセンスです!」

「ドラムむちゃくちゃ格好いい!」

「ハスキーで格好いい声です!」

「ホワイトファルコン、流石です!」

「めちゃいい曲でした!」

「加須田センパイ!結婚して~!」


 錠児は肘で加須田を突くと、にやにやしながら言った。


「1年のかわいこちゃんが、また集まってきたで。えぇなぁ色男は」

「ちゃっ、茶化すなって八剣」

「僻んでるわけやないで!純粋に俺も嬉しいんや」


 冠城はふっと笑って目線を外した。校舎の2階の廊下に目線を向けると、親指を立てる。

 そこには冠城が付き合っている明日葉ルイあすばがいた。ルイは小さく手を叩きながら口の形だけで【おめでとう】と言った。


「さて、今日はどこ行く?」

「久々美味いものでも食いたいよなぁ」

「飲もうで!酒や酒!」

「アホか錠児、俺ら未成年だろうが!」

「相変わらずかったいなぁ銀さんは……それでもあんな可愛い彼女おるんやもんなぁ」

「誠実なんだよ、銀さんは」

「けったいな事言いなや~、俺こそ誠実が服着て歩いてるみたいなもんやないかい?」


 【FLY】が結成されたのは、彼等が高等部1年になったばかりの頃だった。中学から聖ML学園に通う冠城と加須田は、かつては違うバンドに在籍していたが、持ち上がりと共にバンドは解散し、2人ともバンドメンバーを捜していたのだ。バンド結成は学園に在籍する学生にとっては最低条件である。そんな中、高入組として入ってきたのが錠児だ。個性があまりない高入組の中でも、錠児はやや異彩を放っていた。

――1年の入学式の翌々日、それは起こった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る