神イラストレーターをしている幼馴染と一緒にラノベを作ることになったのだが、なんかストーリーに既視感があるのは気のせいだろうか?

黒猫(ながしょー)

第1話

「斗真君、残念だけど打ち切りが決まったよ」


 土曜日の昼下がり。

 自宅近くの喫茶店に呼び出された俺、長谷川斗真は一人のアラサーくらいの男性が座っているテーブルの向かい側で唖然としていた。


「う、打ち切りって……どういうことなんですか!?」


 俺は周りの視線もそっちのけでテーブル越しから詰め寄る。

 彼の名前は清水晴弘。あかつき出版で働いている編集者であり、俺が著者をしている『農民おじさん異世界へ迷い込む!』の担当編集者でもある。

 そして『農民おじさん異世界へ迷い込む!』というのは、去年のラノベ新人賞にて激励賞を受賞した作品であり、主人公が畑仕事をしている時にいつの間にか異世界に迷い込んでいたという王道ながらのファンタジー作品だ。俺はその著者とイラスト両方を担当しており、出版当時は新人ながらも二刀流ということでちょっとした話題にもなった。

 売上も上々と清水さんからは聞いていたというのになぜ打ち切りになってしまったのか……俺には到底わかるはずもない。


「売上が急激に落ちてしまってね……。おそらくはネットでの口コミが影響したんだと思う」

「……そうですか」


 清水さんのしみじみとした口調に俺は何も言い返すことができなかった。

 発売当時は期待されている面もあったが、数日経つ頃にはネット上でも賛否ある声が目立つようになってきた。主にストーリーの流れがテンプレすぎる、と……。

 たしかに序盤はテンプレすぎるかもしれないが、本当に面白くなってくるのは二巻以降だ。

 だけど、出版社が打ち切りと決めたのなら、著者である俺からはどうすることもできない。

 俺は注文していたミルクコーヒーを一気に飲み干すと、席を立つ。


「斗真君。今回は打ち切りになってしまったけど、めげずに頑張ってほしい。君には秘めたる才能があると私は信じているし、次回作がもし準備できたら真っ先に私の方に提出してほしい。内容によっては出版も検討するから」

「わかりました。自分なりにまた考えてみます」


 最後に軽く会釈してから俺は喫茶店を後にした。

 念願のラノベ作家としてデビューしたとはいえ、まだ高校二年生。未熟な俺にラノベ作家として生きていくことは難しいのだろうか。



 自宅に戻ると、自室にはなぜか幼馴染である峯岸茜がいた。

 茜はTシャツにショートパンツとラフな格好をしており、勝手ながら俺のベッドの上でうつ伏せになりながら漫画を読んでいた。

 容姿は贔屓目なしで美少女であり、長い金髪にウェーブと少しギャルっぽさはあるが、ラブコメであればこの上ないシチュエーションでもある。

 だが、俺からしてみれば、物心がついた時からいつも近くにいた存在だ。妹のようにしか思っていない。


「なんで茜が俺の部屋でくつろいでんだよ」


 荷物を適当な場所へと置き、茜の背中をぺしっと叩く。


「あだっ?! いきなり叩くのひどくない? おばさんに言い付けてやるっ! 乱暴されたって!」

「誤解を招くような言い方はやめろ」


 俺は短いため息を吐くと、デスクの方に向かう。

 そしてノートパソコンを開くと、次回作の構成に取り掛かった。


「新作プロット……って、どうしたの? また新しいの書くの?」


 茜が背後から覗き込んでくる。


「ああ。打ち切りになったからな」

「え、打ち切りって早くない? 出版してから二ヶ月くらいだよね?」

「早くて悪かったな。茜のような人気イラストレーターとは違って、俺には才能がないんだよ。だから……まぁ、そういうことだから帰ってくれないか?」

「……」


 数分程度沈黙とした空気が流れる。

 完全なる八つ当たり。茜の才能に心のどこかで妬んでいた自分がいたのかもしれない。本当に幼馴染として、人間として最低だ。


「あ、いいこと思いついた!」


 だが、茜は気にしていないのか普段通りの口調で俺の肩をぽんっと叩く。


「私とタッグを組まない?」

「……は?」


 俺は思わず茜の方へと振り返る。

 一体何を言ってるんだ?


「私がイラストを担当して、斗真が文章を書くの! これ名案だと思わない?」

「思わねーよ。大体、打ち切りになった理由もイラストが問題じゃなくて、ストーリー構成が––––」

「あーはいはい。難しいことはわかんないけど、そこに関しては私も一緒に考えるから安心して。ね?」

「できるか!」


 難しいことがわかんないならなおさら不安でしかない。

 正直、断ろうかとも思ったが……茜が妙にやる気なのはなぜなんだろうか? ラノベのこと甘く見てるってわけじゃないよな?


「じゃあ、そうと決まれば、さっそく作業に取り掛かろー!」

「何勝手に……。俺は––––」

「あーはいはい。いい子でちゅから静かにしましょうねぇ〜?」

「幼児扱いすんな!」



 それからというもの俺たちは新作に向けての作業を開始した。

 茜が言うには今はラブコメが人気らしく、特に幼馴染をヒロインとしたものを作った方がいいらしい。本当にそうなのかとも疑いたくなるが……SNSでのフォロワー数二十万人越えでなおかつ、神イラストレーターとして評判が高い茜にただ従う他なかった。


「こんなもんでいいのか?」

「うん! そんな感じそんな感じ♪」


 出来上がったプロットに対して、茜に確認を取る。

 ほとんど言われた通りに作成はしてみたが……俺が書く必要性あるのか?

 俺自身の存在意義がもはや薄れつつあるが、ネタはともかくとして文章力だけは絶対に茜よりかは勝っている。

 自分でも再度全体像の確認をする。

 ––––なんか見覚えがあるような……?

 既視感とでも言うのだろうか? どこで見たことがあるような気もしなくはないが、普段はラブコメなんて滅多に読まない。きっと気のせいだろう。

 そう思うことにした俺はそれ以降、気にすることなくプロットに沿ったストーリー作成に取り掛かった。



(なんで気づかないのよ!)


 斗真と一緒に新作ラノベを作ることになったのはいいけど、プロットを見て何か違和感を覚えないの?!

 実を言うとここだけの話、プロットのネタはすべて私たちの関係をモデルにしている。主人公は高校生にして、ラノベ作家であり、イラストレーターでもある近年稀に見る二刀流。ヒロインはもちろん幼馴染であり、売れっ子イラストレーターとして活躍しているという設定になっている。出会った時から現在までのストーリーは実際とほぼ相違ないくらいに寄せているっていうのに……これはいわゆる鈍感というものなのか?


「ん、どうした茜? 俺の顔なんかじっと見て?」

「え、あ、ううん。なんでもないよ。気にしないで」

「そうか?」


 斗真は私の反応を見て、不思議そうな表情を見せたが、すぐにノートパソコンの方へと視線を戻していった。

 危ない危ない……。ともかく斗真に気づいてもらうためにはどうしたらいいのだろうか? やっぱり最終手段でもある主人公とヒロインの顔を私たちに寄せるしかないよね。やりたくないけど。

 タブレット端末の画面に途中まで描かれていたサンプルを一度削除する。

 今回の作品はラブコメである以上、最終的には主人公とヒロインがくっつく設定にしているし、それで何がなんでも私の気持ちに気づいてもらわないと……っ!



 担当編集者から打ち切りを言い渡されてから約半年が経過した。

 一時期はラノベ作家人生終了かとも思ったりしたが、茜の助力もあって、新作であるラブコメは担当編集者の清水さんにも好評だった。

 すぐに書籍化が決まり、イラストレーターも茜が担当することになって、SNSを中心としたプロモの影響もかなり大きく、発売日以前から期待の声が大きい。

 前作とは違った反応に俺も今回こそはいけるのではないかと自信に満ち溢れていた。

 そして、発売日当日。


「いやー、今回は本当にすごかったよ。これも全部茜のおかげだな!」


 近所の書店まで茜と一緒に偵察に来ていたのだが、思った以上の売れ行きだった。特設の販売コーナーまで作られており、開店当初は三十冊ほど用意されていたのが、一時間もしないうちにすべて無くなり、追加で並べた在庫もまたすぐに減っていった。

 このままいけば続刊も制作が決定するかもしれない。これもすべては幼馴染のおかげ。感謝してもしきれない。

 だが、隣を歩いている茜の表情はどうも曇っている。


「あーうん。よかったね」

「ん、なんで嬉しそうじゃないんだ?」

「いや、そういうつもりじゃないんだけど……」


 茜は深いため息を吐くと、頭痛でもするのかこめかみに手を当てる。

 このところ茜は忙しかった。ラノベの挿絵はもちろんのこと、他にもイラスト集なども手がけており、学校では中間テストが赤点だったということもあって、追試も受けていた。十分な休息が取れていないのだろう。

 ––––お礼と言っちゃなんだが、何か奢ってやるか。


「そう言えば、ここら辺に茜が食べたいって言ってた美味しいスイーツがある店があったよな? そこに行くか? 今日は俺が奢ってやるからさ」


 すると、茜は一瞬表情を明るくしたもののすぐに元の曇った表情へと戻る。


「え……あ、うん。行く」


 茜の様子のおかしさが気になるものの深追いはしなかった。


「なんで気づかないのよ。この鈍感……。ストーリーは私たちをモデルにしてるのに……」

「ん? なんか言ったか?」

「何にも言ってませんっ! ふんっ!」

「え、なんで怒ってんだよ!?」


 なぜか機嫌が悪くなった茜の後を俺は急いで追うのだった。


【あとがき】

 一応、ここまで……。

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 KAC用なので4000字以内にはなんとか収めたけど、結構無理があったと思う。続きを書くかどうかはわかりません(書くとしても改稿する)。

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神イラストレーターをしている幼馴染と一緒にラノベを作ることになったのだが、なんかストーリーに既視感があるのは気のせいだろうか? 黒猫(ながしょー) @nagashou717

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