【KAC20221】二刀流(意味深)
井澤文明
二刀流の意味
「KACの1回目のお題が発表されたっぽいよ」
「KAC?」
先輩の言葉に、私は首を傾げた。先輩は持っていたスマホの画面を私の顔に近づける。画面には、丸々としたフクロウのようなマスコットキャラクターが映されていた。
「カクヨムの企画。出されたお題に対して、短編を書くんだ。毎年この時期にやってる」
「へえ、初めて聞きました。有名なんですか?」
「知らないの? 文芸部なのに」
「Web小説には興味がないんです、私」
先輩は大袈裟にため息をつく。
「そうだったね、忘れてたわ。いい機会だから始めてみたら?」
「でもWeb小説は書かない───」
「食わず嫌いは良くないよ。KACに参加するまで、帰さないから」
私は渋々、スマホのメモアプリを開き、『二刀流』とメモのタイトルを打ち込んだ。
「それで、『二刀流』って聞いて、何が浮かぶ?」
古い部室の天井にこびり付いたシミを見つめる。いつもは部室に響く野球部の声も、別れの季節が近づいているこの時期には聞こえなかった。
「やっぱり野球でしょうか? 最近、人気ですし」
「だね。そうすると、やっぱり野球もの?」
「私、野球のこと何も知りませんけど?」
「僕も。剣道も知らないし、そうするとスポーツ系はナシかな」
沈黙。
生暖かい風が寂しい部室の中を吹く。気まずい空気を破るように、先輩は口を開いた。
「あとは恋愛系のヤツ? 僕、そういう意味で二刀流って言葉が使われるの、貶されているようで、あまり好きではないんだけどさ」
「恋愛、ですか? 何かありましたっけ?」
「ああ、そうか、君ってそういうのに疎いもんなあ」
先輩は困ったように、くすくすと笑う。何だが馬鹿にされているように感じて、マスクに隠された唇を尖らせた。
「それで、二刀流ってどういう意味なんですか?」
「───僕みたいな人のことだよ」
先輩の言葉の意味が分からず、部室の窓際に背を向けて椅子に座る先輩の顔を見つめた。でも、先輩の顔はマスクに覆われていて、その表情を読み取ることはできなかった。
【KAC20221】二刀流(意味深) 井澤文明 @neko_ramen
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