第13話

次の日、頭の中がまだ高瀬くんでいっぱいだった。

そのせいなのか、今日は全く授業に集中出来なかった。何をやっていても高瀬くんがどこで手話を覚えてきたのか気になって仕方がない。


「『千春、今日ずっとボーッとしてるけど大丈夫?』」


『璃緒…私を1回叩いて欲しい!』


「『はい!?あんた何言ってんの?』」


『昨日のお昼の出来事から、その、高瀬くんがどこで手話覚えてきたのか気になって仕方なくて……』


「そっちかーい…『それなら本人に聞けば?今日学校来てるっぽいし。探せばいると思うよ?』」


『そ、そんな!急に話しかけたら変に思われるでしょ…?』


「『だーいじょぶ大丈夫、あいつはそんなこと思わないよ。』」


『わ、わかったよ……今日会えたら話してみる……!』


「『その意気その意気。』(まあ、初めはこんなもんか。)」


と、璃緒と話していると


「『あ、噂してたら。』」


なんと高瀬くんが私たち教室に入ってきた。


ちょっと待って、なんで今来るのと1人で頭の中がパニックを起こしていると、高瀬くんは周りを見渡して私がいるのを確認してきた。そのまま私の座っている席に向かって歩いてくる。


「傍から見たらカツアゲに来たようにしか見えないよ高瀬。もう少し人相柔らかくしな。」


「っせーよ文月。」


2人は何か喋っている。口の動きでなんとなくわかるがキチンとはわかっていない。そんな2人を見ていると高瀬くんが手話で話しかけてきた。


「『こんにちは。』」


『こ、こんにちは…。』


緊張で手が震えている。これから何をされるのだろう。


璃緒は他のクラスの人達に何か言っている。反対の方向を向いているから口元が見えず何を話しているのかは分からない。何か言っている璃緒に対して高瀬くんが「やめろ」とだけ言った。


この時点で一体何が起こったのか察しはついた。こういうことは今まで何回かあったから。


そのまま私が顔を下げていると高瀬くんがまた話しかけてきた。


「『手話を教えて欲しい。』」と。


それを言った高瀬くんは璃緒に通訳をお願いしたらしい。


璃緒の通訳では、簡単なものは高瀬くんのお姉さんに教えてもらったけど、もっと手話のことを知りたいらしい。理由は「『高瀬が手話でまともに話せるようになったら聞きな。』」と言われてしまった。


『私でいいの?』


と、私が聞くと高瀬くんは紙を取りだし渡してきた。


[あんたがこの学校で1番手話詳しいだろ。お願いします。]


ここまで言われてしまったらうんとしか言えない。

そう思い、私も


[わかったよ。よろしくね。]


と、渡された紙に書いてそれを手渡した。


それからまた璃緒の通訳で話をし、明日から放課後、璃緒の部活が終わる時間までの間に手話を教えることになった。


これが、私と彼の距離が一気に近くなる最初の出来事だった。

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