第6話

結局、高瀬くんは放課後になるまで来ることは無かった。


「『結局あいつ来なかったじゃん。いっつもどこほっつき歩いてんの?』」


「『さすがにそこまでは知らないよ?でも放課後だから昨日と同じところ行ったらいるんじゃない?』」



『うーん、とりあえずいるかは分からないけど行ってみるよ。』


「『お、頑張れー。私ももう部活行くわ。』」


「『2人とも行ってらしゃーい!私ここで待ってる!』」


ありがとうと明日香に手を動かし教室を出た。


その瞬間、足が上がりきらずにドアのレールにつまずいた。

遠くからボヤっとだが明日香の声が微かに聞こえてくる。

昨日から何度目か分からない頭から落ちていく感覚。今年は厄日なのかと思いながら目を瞑った。


だが覚悟していた痛みは全くなく、それとは別にお腹に誰かの腕が回っているような感覚がした。

その腕の主に目をやるとなんと昨日も助けてもらった高瀬くんだった。

高瀬くんは後ろを見て口を動かしていた。明日香と話しているんだろう。


そのやり取りを見ていたら後ろから明日香が顔を出し、通訳するから渡せと言った。


私は手に持っていたお菓子を差し出した。

高瀬くんはキョトンとしていたが明日香の方を見て理解したような顔をした。

次に彼は私に向かって手を出し今度は私がキョトンとする番だった。

明日香が私に『メモ帳出して』と言わなかったら私は握手をしようとしていただろう。明日香に感謝だ。


急いでメモ帳を出し高瀬くんに渡す。

彼はサラサラと何かを書いて私に渡したあとすぐに踵を返した。

メモ帳には男っぽい綺麗な字で[ありがとう]とだけ書いてあった。


昨日は何も思わなかった字体だったが、なんだかこの時はフワフワとした思いが心に浸った。


それを見た明日香は(これはほぼ確信)と思っていたらしいのはまた別のお話だ。







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