第11話 空転

「…まためんどくさいことになった。」

白髪(はくはつ)の彼が離れていく二つの背中を見ながら呟いた。

「なんか既視感があるわ。確か、陰尚が来たときもこうだったわよね?」

「うん、そうだったねー。でもまあ、僕たちが積極的に絡みに行けばいいんじゃない?前もそれですぐに話せるようになったし、何とかなるよ。」

「そうね。今回もうんと話しかけてやりましょう。」

「春彦殿と美潮はほどほどにね。彼の時、さすがにしつこ過ぎて不憫に感じてしまうほどだったよ?」

「ああいう頑なに他人と関わらないのにはしつこいくらいがちょうどいいのよ。」

「ははは……、これは彼が頭を抱えることになりそうだね……。ああ、そうだ春彦殿、またお願いしてもいいかな?」

そう言って前に差し出したのはおなか一杯になった麻袋。詰め込まれすぎて呑み込んだものの形に体を変形させている。白髪の彼も同じように腰にぶら下げていたのを外して手渡した。それらを受け取った春彦は、中を除き不気味な色に染まった結晶、凝結晶が入っているのを確認する。

「わあ、またたくさんあるね。うーん、溜まる一方だなあ。倉庫もそろそろいっぱいになってきたからどうにかして減らしたいんだけど……。まあ、とりあえずこれは僕に任せて。」

「うん、よろしく頼むよ。」

「よろしく。……あと、薔永も袋一つ分持ってるから、あとで渡されると思う。」

「……」

春彦は黙ってしばらく目を細め、眉をしかめる。

「いや、もう締め切りっ。薔永の分は知らない。」

「それがいいわ。ということでそろそろ解散しましょうか?それじゃっ。」

「あっ、待って。ちょっと一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

美潮の合図で四方八方各々行きたいところへと散らばろうとしていたのを、源の声が遮った。

「引き留めて申し訳ないんですけど、その、あの、さっきの薔永さん?っていう人が何処に行ったかどうかって分かります?」

「ん?ああ、薔永なら多分食堂に行けば会えるよ。角の方の席でうつぶせになって寝てると思うから探してみてくれるかい?」

引き留める声に5人とも振り返ってくれたのは温かいことだと言わざるをえない。そして、その中の一人がすぐに問いに答えてくれる。

「ありがとうございますっ!じゃあ、俺もここで失礼させてもらいます。」

元気よくお礼の言葉を述べて、源は足早に母屋の方へと向かっていく。

「あっ、薔永に会うなら、倉庫への片づけ自分でしといてって伝えといてくれるー?」

「はいっ、分かりました。」

離れていく源が見えなくなったところで、残った彼らもその場を立ち去っていった。

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