第6話 再会
シャーン、シャーン
敷地内に鈴の音が鳴り響く。これは、新たな仲間が誕生した知らせだ。
で畳の上に座り、自分の武器である筆架叉を手入れしていた男は、この音を聞き部屋を後にする。
吹きさらしの廊下を歩いていると、庭の池のある方から1人の女性が歩いてくる。
「やっほー!新入りが来るみたいね。早く行きましょう!」
「ちょっと、待ってよ。」
彼女を待った後で再び歩き出そうとすると、後ろから声がかかる。少し離れたところに子供が立っていた。
「僕も一緒に行くよ。」
その子どもも近づいたところで、ようやく、歩みを再開する。
目的地に近づいて行くと、その少し前で1人の大人びた女性が立っている。彼女の前に辿り着いたところでまた、立ち止まる。
「これで、今いる人は全員揃ったね!」
「今は3人出てるからねー。」
「中で待ってるだろうから早く行ったほうがいいんじゃないか?」
「そうね!」
「早く行こーう!」
男の声に頷くと2人は早足で駆けていく。そして残りの2人がついて行く形で彼らは目的地へとまた進むのだった。
瞼の先からも伝わってくる光はやがて強さを弱めていく。目を開いたその先はほの薄暗い。先程との明暗の差から、視界が暗くはっきりしない。目を瞬かせる。
その暗さに慣れた瞳は茶色い木の色を映す。ここは木造の建物の一室であるようだ。ぱっと見たところ16畳くらいだろうか。十分な広さがある。
「?!」
より部屋の中を見ようと後ろを向いた夜月は目を剥いた。そこに見えたのは太い木の幹。部屋の四隅の一角に1本の巨木がめり込んで存在している。夜月達はちょうどその真ん前に位置している。その侵入した木に合わせて壁に穴が開けられているがぴったりとはいかないだろう。木の壁の間の隙間から細く風が吹きぬけている。そしてその風に吹かれて時折入ってくるのだろう。桃色にほんのり色付いた花びらが木の周りに散らばっている。
「桜か?」
指より小さなそれを一欠片拾い上げて源は呟く。そして不思議がるように首を傾げた。
源が不思議がるのも仕方がない。今は四季のある恵白では夏の時期に当たる。桜が咲く季節には遅すぎるのだ。太い幹を持つ木に咲く桃色の花は、他にも梅や桃などあるが、それらも咲く時期は春か冬にあたる。季節で考えて該当するものがないのなら、これは季節関係なく一年中咲いていると考えるのが妥当だろう。神が関与しているとするならば何もおかしいことでは無い。
トッタ、トッタ
トントントントン
何人かの足音が近づいてくる。木の方を見ていた首をこの部屋のたった一つの出入口、木製を引き戸の方へと動かす。
ガタン
音をたてて開かれたそれの奥には四人の人影。彼らが二人を確認したであろうその直後、その中のうち1人が、彼より前にいた二人を押し退けて近寄ってくる。そして、二人を抱き寄せた。
灰色がかった暗い緑の髪。短い横髪と首の後ろで結んだ長い後ろ髪。夜月にはその人物に見覚えがあった。そして、源も。
「兄ちゃん?」
源がそう呟いた。
信じられない。これは夢ではないだろうか。
膨れ上がる感情を抑えながら、夜月も呟いた。
「陰尚兄?」
「ああ、そうだ。源、夜月だよな?」
影尚は夜月にとって兄のような存在だ。5歳で親元を離れることになった夜月を気にかけ、共に過ごしていた。血は繋がってなくても本当の家族のようだった。源は影尚がまだ故郷の里にいた頃によく面倒を見ていたうちの一人らしい。彼は夜月と源の唯一の接点。彼がいなかったら二人が試練で共に行動することはなかっただろう。
そんな彼は、2年前に魔物に殺されている。夜月に至ってはその亡骸をも見ている。目の前に亡骸がある以上、受け入れなければならない義兄の死。
そうして、もう会えないのだと諦めていた彼が、今、目の前にたっているのだ。言葉に出来ない程の感情が胸の奥で渦巻いている。
「兄ちゃん!本当に兄ちゃんなんだな!」
「だからそうだって言ってるだろう。本当に久しぶりだな。」
満面の笑みで、素直に喜びを表す源。それに対し、夜月はずっと目を剥いて止まっている。そんな夜月を見て、影尚は目線を合わせてその顔を覗き込む。
「夜月?どうしたんだ?」
2年前と変わらない声で、優しい表情で彼は呼びかける。
夜月は感情を抑えられなくて、涙が一粒流れ落ちた。少しでも流したらもう止まらない。止めどなく溢れ出し滴れ落ちる。
「おい、泣かないでくれよ。俺まで泣きたくなるだろ?」
それにつられて影尚も涙を流し始める。
感動的な雰囲気を醸し出す室内。それを見させられている他3人の反応はまさに三者三様だ。状況がわからず混乱する者。感動したかのように首を縦に振るもの。そして、無表情に 彼らを眺める者。3人目の彼女は泣き始めた辺りから室外の壁にもたれかかって、ただ声だけを聞いていた。
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