第4話 再誕3
「さて、次で最後の話になるのですが、その前にどうでしょう?他に何か聞いておきたいことはありませんか?」
源(げん)の質問に答えていた1柱の女神は、そう言って改めて質問のための時間を設けた。
「それなら、一ついいですか。」
例のことはもう聞かないと決めたのだから、相手が問いを求めているからと言って再び話題に出すようなことはしない。だから、今尋ねるのはまた別のことである。
まあ、夜月はその代わりとして考えた質問なのだが。
「俺が、今着ている服、生前着ていたものと同じもののように見えます。汚れなどはないので、生前のものそのままではないとは思いますが……。これは、桜(おう)翠(すい)様が用意してくれたのですか?」
「ああ、そのことについて触れていませんでしたね。……ええ、それは私、と言うより私たち、が用意したものです。過去に、生前の服にかなりの思い入れがあるという人がおりまして……。その時から、こうして用意するようになったのです。ただ、」
ここで、女神は念を押すように語気を強めた。
「恵白を管轄とする転生者、彼ら以外の前では話題に出さないようにしてください。この制度を採用しているのは、恵白だけでして、他の国では、生活に支障が出ない程度の簡易なものなのです。中には、恵白の制度をうらやましがる方もいます。その気持ちを煽らないように、彼らに対してこちらからその話題を出すことのないようお願いします。……あっ、」
恵白の初期服制度事情の話を一息で言い切った女神は、何かを思い出したように声を出し、立ち上がると、一つの木製の箱を手にして戻ってきた。それから、再び円座に座り箱を開け、中のものを取り出す。
「夜月、これを。」
手渡されたのは黒い生地の羽織物。
「さすがにローブを着せたまま寝かせるわけにはいかないと思いまして、こちらの方で預かっていました。」
「お心遣い、ありがとうございます。」
ローブを広げて片にかけながら、夜月はお礼の言葉を述べる。
これも、生前身に着けていたものだ。
背中のほうに手を伸ばしてフードを被る。それは彼に安心感をもたらす。このままの方が落ち着くのだが、礼儀としてそれはよくないため、名残惜しくも再び長い黒髪を露わにさせる。
「ですが、渡されたからと言って、この服で生活しなければならないというわけではありません。着るものについてはあなたたちの自由です。ほとんどの転生者は、新しく新調したものを身に着けています。恵白の者も含めて。まあ、色や大体の形状を統一させているところも一部ありますが。」
女神が話し終えたところで、夜月は、源が服の話になってから一言も話していないことに気づく。隣を見ると、まったく興味のないという様子でまっすぐ前を向いていた。服に対して興味がないのか、それとも生前の服に思い入れがないのかは知らないが、とにかくこの話題は彼に関心を持たせるには不適応であったようだ。
そんなことを考えたが、夜月としては特に気になることではない。まず、無関心な話題など誰にでもあるのだ。源が無関心になる理由などどうでもいい。そう思って、源から目を逸らす。
「あなたたちの服についてはここまでとして……、他にはありますか?教えられることであればお答えしますが。」
自分は特にもう思いつかない。源の方は何かないのかと、再び首を動かすと、あちらもどうやら同じらしく、お互いに顔を合わせる形になってしまった。
「大丈夫です。特にこれと言って聞いておきたいことは思いつきませんね。」
代表として、源がそう発言した。そして、その言葉を聞いた女神は、一度小さく首を縦に振ってから次の話を始める。
「分かりました。では、最後にあなたたちに特殊能力を与えたいと思います。」
「特殊能力?それって試練の時の触らずに物を動かすとか、強風を出すとかですか?」
「はい、そんな感じですね。普通の人間は、魔力を現象として外に出すためには転力印がないとできません。しかし、この能力を得れば道具を使うことなく、魔力を直接扱うことが可能になります。」
「何ですか、それ!すごくかっこいいじゃないですか!」
源がはきはきとした声をあげる。顔をみなくても目を輝かせているだろうことが分かる。実際、目をいつもより一回り大きく開け、歯を見せて顔面全体でそれに対する興味を表している。
「ああ、さっき話していた魔力が重要なってくるというのはこういうことですか。」
それに対して、夜月は冷静だ。それを聞いて驚く様子も、喜ぶ様子も、半信半疑になっている様子も見えない。
「そういうことです。この特殊能力は、素材の入手や加工などは必要なく自分の身一つで使用できます。しかし、使用に転力印の発動とは比べ物にならないくらいの魔力を消費しますので気を付けてください。それから、普通は魔力が枯渇することはないので忠告されていませんが、能力手に入れるあなたたちは違います。いいですか、魔力の枯渇は命を落とす可能性があります。くれぐれも使いすぎることのないようにしてください。能力以外でも戦えるように身体能力を上げているのですから。」
命に関わるのか。魔力の少ない自分は特に残りの魔力量を管理しなければならないな。
夜月が魔力枯渇の危険性を肝に銘じる一方で、興奮した顔からどこか心配そうな表情に一変した源は、隣を見てこう思っていた。
こいつ、魔力なくなって死ぬんじゃないか?
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