第三十五話 無限
『
『同属殺し』を生業とする吸血鬼。
コピー用紙のように白い髪と肌。黒い瞳に剣呑な印象を与える目付き。黒一色の服装。
外見は『
シェリーのように鬼人でもなく、『
魔力に形を与えて具現化する、物質創造能力を得意とする――その能力の汎用性はかなり高く、剣山を作って攻撃、牢を作って敵を拘束するだけでなく、崩壊寸前の建物の補強、索敵、自分の肉体の修復など……できることはかなり多い。
弱点は――現状不明。
素の再生能力は低いようだが、物質創造能力でそれを補っている模様。
レイラと過去に何かあったようで、レイラを自分から遠ざけるような、警戒している言動が目立つ。
「爆ぜろ」
「あ」
その言葉と同時に、俺の身体は内側から爆発した。
剣山――腹部に突き刺さった三角錐の槍は、先程と同じように質量を増やして、俺の身体を上下に引き裂いた。
「――っ‼」
『
吹き飛んだ上半身から傷がなかったことになって、俺は空中で体勢を整えて、再度『
『
そのまま吹っ飛ばされた。
『イカれてんな』
どろどろの液体に変化したあと、肉体を修復させながら、『
「損傷を受ける前提で突っ込んできてんな……お前。不死身の活かし方をわかってる――と言いたいところだが……そりゃ吸血鬼の戦い方じゃねえ……『
「…………」
『
五回。
五回近付いてようやく……攻撃が届いたけど――参ったな。
てっきり脳か心臓――生身の核が、身体のどこかにあるものだと思っていたけど……触った感じ、そんな反応は一切なかった。
『
こいつに核はない。
わかりやすい弱点があればよかったけど……そんなわけないか。
想定以上の
……と。
『か、なめ……さん』
「……シェリー?」
どこからかシェリーの声がした。
どこからと言うか――頭の中に直接響いたような。
俺は『
「大丈夫なのか?」
『はい……なんとか』
その間に『
『傷は治っていませんが……身体は人間よりも丈夫なので……簡単には――死にません』
「そうか」
剣山を避ける。
避けて――それで俺は『
すると『
剣山の隙間から心臓を狙う――しかし『
『能力の行使は無理ですが……口は動きます。何か……知りたいことはありますか?』
「――『
体勢を立て直して、俺は端的に言った。
「あいつ、弱点はあるのか?」
『弱点は……ほとんどないです』
シェリーは絞り出すような声で言った。
『彼の身体はすべて、物質創造能力でできています……昔は……そうじゃなかったみたいですが……今は身体のどこかに生身の核があるわけでも――別に本体がいるわけでもありません。『
「……無限?」
シェリーが気になる単語を口にしたので、俺はその言葉を反芻した。
「無限の魔力って……どういうことだ?」
「なんだ――『
俺の言葉に『
シェリーは説明を続ける。
『『
魔力の質が劣化しない。
それはつまり……同質の魔力を……永遠に生み出せるってこと――か?
「それで無限の魔力ってことか……チッ。あいつ、前に自分のこと脆弱って言っていたけど、どこが脆弱なんだよ!」
「別に、脆弱ってのは嘘じゃねえ」
シェリーの発言に反応した俺に、『
「何を聞いたかは知らねえが……『
『
「吸血鬼になった時、『固有能力』にも目覚めなかったからな……だが敵は待ってくれなかった。肉体を損傷しても、完治するまで敵は待ってくれない。こっちの事情なんてお構いなしに敵は襲ってくる……だから俺は、吸血鬼なら誰でも持つ当たり前の能力を、がむしゃらに鍛えた――その結果がこれだ」
「…………」
「最初は右腕の前腕だったな……次に左肩、そのあとに右の脇腹……もう細かい順番は忘れたが、少しずつ、少しずつ……俺は自分の身体を物質創造能力で補って行った。……再生を待つより、その方が何倍も早かった」
剣山を生み出しながら、『
「おかげで『テセウスの船』みてえになっちまったがな……俺は物作りは得意だが、ほかの能力はてんでだめだ……総合的なスペックで言えば、神崎かなめ――『
地面から伸びた剣山から、更に剣山が生み出される――それを避けて壁際に行くと、壁からも剣山が伸びて、襲い掛かって来た。
右肩を抉り取られたが――無視して、俺は『
首が飛ぶ。
『
身体を左右に引き裂かれる。
『
赤と白の肉飛沫が散る。
殺し合いながら、俺はシェリーの説明を聞いた。
『彼は物質創造能力以外の能力……例えば、わたくしのように『異空間操作』を行使したり、『
「…………」
確かに自分の肉体を生み出したり、小鳥のような小動物も生み出せるのなら――自分の身体を複数個作ったり、『
今は――何故かそれをしないけど。
『
「シェリー――『
『『
「ああ」
俺は言った。
「『
『……有名な話ですが』
訊くと、シェリーはそう前置きして答えた。
『『
「……『人外殺し』側?」
『はい』
シェリーは言った。
『わたくしと『
「…………」
『『
ここで――シェリーは『
『『
その説明を聞いて俺は納得した。
『『
「……なるほどな」
レイラと戦って――そして元の肉体を完全に失ったってわけか。
……そりゃレイラを避けるわけだ。
知りたいことを知れたので、俺は別の質問をした。
「シェリー――シェリーの能力って……影から影に、移動することはできるか?」
『……できるかどうかと言われたら……はい。できます』
「じゃあ――俺の家まで行ってくれ」
近付いて、『
どろどろに溶けて、再生している最中は猛攻が止むため……少しのインターバル中に、俺は小声で言った。
「レイラを呼んでくれ……俺が戦っているって知ったら、あいつは飛んでここに来る――そうすれば『
『それは……無理です』
「……なんでだよ?」
『
たぶん――聞かれたか。
『ごめんなさい……わたくしの能力は……確かに影から影へ……移動することも可能なのですが……それができるのはわたくしが、『お気に入り』に登録した影のみなのです……だからわたくしはわたくしの影からかなめさんの影に……
「……ほかに登録している影は?」
『『
「……そうか」
「今――『
そう言うと同時に――『
元々激しかったが――レイラの名を聞いて焦ったのか、『
隙。
『
また心臓を貫いて、ヒットアンドウェイの要領で、離れ――ようとしたのだが。
「馬鹿が」
「なっ」
『
どろどろの液体に変化せず――そのまま俺の腕を固定した。
そして二本の三角錐が地面から生み出されて――俺の両足の甲を貫いた。
「……っ⁉」
両足の甲だけで終わらなかった。
更に、複数の三角錐が生み出されて――太もも。
脇腹に心臓。
両肩。
両腕を貫かれた。
一瞬で串刺しにされた。
「がっ!」
『かなめさん!』
『なるほど』
俺を串刺しにして捕えたあと。
それから自分の身体をどろどろに溶かして――『
「やけに攻めて来ると思ったが……お前の本命は俺の集中切れだな? ……『
肉体を作り直してから、『
「狙いはいいな。……確かに俺はここ数日まともに休んでねえし、精神まで無限じゃねえ――お前の筋書きはこうだろ? 俺はキヨズミの一件で疲れている……だから無理矢理にでも攻めて、俺に能力を使わせて……攻撃か肉体の修復、どっちでもいいから、俺の対応が遅れる瞬間を待つ。そしてその隙を付いて逃走する」
「…………」
「そして――俺は『
……筒抜けかよ。
俺は舌打ちした。
さすがに――そこまで読まれているとは、思わなかった。
「大したやつだ――気付かなかったらその作戦は成功していたかもしれねえが……気付かれたら意味ねえな。お前を捕らえるのも簡単だ」
「シェリー――何もするなよ」
俺は目の前の『
「これくらい大丈夫だ」
「……ほう。自分より女の心配か?」
「これくらいどうってことない」
「嘘付け――痛みを感じないわけじゃねえだろ?」
『
「吸血鬼は別に、痛みに強いわけじゃねえ……いくら再生能力が高い――傷をなかったことにできるっつっても……激痛なことに変わりねえだろうが?」
「……だからどうした?」
これくらい――抜けようと思えば抜けられる。
動かそうと思えば――身体は動く。
確かに痛いけど――激痛だけど……これくらい、どうってことはない。
今の目的は――シェリーの治療。
俺の損傷は――どうでもいいだろ?
「……なるほどな」
と。
『
「……何度か攻撃すりゃあ、痛みで動かなくなると思ったんだがな……お前、痛みに強過ぎるな。生まれ付きなのか『
そう言うと。
『
「……悪いな」
そう言った直後だった。
全身に激痛が走ると同時に。
俺の意識は飛んだ。
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