第二十四話 犯人像

 『創造物質クリエイト』がどこかに電話をすると、一旦解散の流れになった。

「お前達は家に帰れ――結果は明日報告する」

 電話でどこかに――恐らく『教会』に所属する人に連絡して、確認したい情報が明日の朝手に入ると知った『創造物質クリエイト』は、俺達にそう言った。

「……部下達三人の詳しい情報と、向こうで起こっている行方不明事件の被害者リスト、現段階での調査結果は、明日の朝にわかる――それまで俺達にできることはねえ。お前らは一旦家に帰って、明日まで身体を休めろ」

「……何もできないことはないと思います」

 佐々木は『創造物質クリエイト』に意見した。

「待っている間に、あたし達は死体使いを探すべきです――今こうしている間にも、行方不明になっている人が苦しんでいるかもしれないのに……休んでいる場合ではありません」

「……手掛かりもねえのに、どうやって探す?」

「それは……死体使いが死体を操作しているなら、この人達と魔術師は魔力で繋がっているはずです――だからそれを辿って」

「残念だからそれは無理だ――こいつらはゴーレムみたいに、術者から魔力を受信して動いているわけじゃねえ……どうやってんのかわかんねえが、自分で魔力を生成して動いてやがる――だから、その方法じゃ探せねえ」

「……じゃあ」

「勘違いすんなよ――佐々木」

 『創造物質クリエイト』は冷ややかな目をして言った。

「別に俺は行方不明者のことを無視して、呑気に休めって言ってんじゃねえ――明日だ。明日、すべてを明らかにして終わらせる……そのために今は休んで、英気を養えっつってんだ」

「……でも」

「被害者を心配して行動する、お前のその心意気は立派だ――だが佐々木。お前、ここ数日まともに休んでねえだろ?」

「…………」

「しっかり休めるのは今が最後だ――だからしっかり休め。いいか、これは命令だ――今晩、お前を街中で見掛けたらシメるからな? わかったか?」

「……わかりました」

 渋々という感じだったが、佐々木は頷いた――『創造物質クリエイト』が説得しなければ、そのまま一人で捜索に出そうな勢いだった佐々木だが、どうやら不本意ながらも、納得したらしかった。

 佐々木達と別れて、俺も帰宅する。

「ただいま……シェリー」

「はい。おかえりなさい――かなめさん」

 自室に行って着替えてからリビングに行くと、シェリーが出迎えてくれた。

 いつも通り漆黒のドレスを着て、定位置になりつつある、座布団の上に座って。

「大丈夫でしたか? かなり遅かったですが」

「ああ……まあ」

 深夜一時過ぎ。

 思ったよりも時間が経過していた――肉体的には少しも疲れていないけど……数時間の間に色々あったからか、精神的に少し疲れた。

 欠伸が一つ出たので――俺は自分の口を押える。

 それからシェリーに言った。

「悪いシェリー……待っていてくれたのか?」

「はい」

 にっこりと微笑んで、答えるシェリー。

 もう夜更けと言っていい時間だが、シェリーは少しも眠そうな感じがしなかった。

 レイラはもう寝ているけど。

「まだ……寝ない予定?」

「かなめさんが寝るまで、起きている予定です」

「そうか」

 考えて、俺は言った。

「じゃあ悪いんだけど、少しだけ話相手になってくれ――色々あったから、話して頭の整理したい」

「はい――わたくしでよければ」

「ありがとう……ホットミルク入れるけど、飲む?」

「いただきます」

「そうか」

 シェリーも飲むと言ったので、俺は台所に行って、ホットミルクを二つ作って戻る。

「それで――何があったんですか?」

 マグカップを渡して二人でホットミルクを飲んでいると、俺が一口分飲んで口を離したタイミングで、シェリーが見計らっていたかのように話を促して来た。

 俺は何があったのか話す。

 佐々木と一緒に岸の拠点を見付けたが――そこで以前襲って来た、ゾンビに襲われたこと。

 ゴーレムにも襲われて、建物諸共潰されそうになったこと。

 結果的に建物の下敷きになることはなかったが――地下にあった岸の拠点で、拷問部屋のようなものを発見したこと。

 各々に地下拠点を調べて、それから地上に出て、話の成り行きで『創造物質クリエイト』達に以前、ゾンビに襲われたことを話したこと。

 そして死体使いの魔術師が誰か、現在探している最中だと言うこと。

 を――とりあえず話した。

「……それは大変でしたね」

 と。

 話を聞いてくれたシェリーは、そう感想を漏らした。

「大変ね……まあ、確かに大変だったな」

「……ところで。かなめさんも個人的に調べ物をしていたとの話でしたが……かなめさんは、何を調べていたんですか?」

「ん? うーん……あの拷問部屋の主が、どんな人物なのか気になったから――それについてちょっとな」

「……拷問部屋の主って、例のゾンビ使い――死体使いですよね?」

「たぶんな」

「何かわかったんですか?」

「うーん」

 俺は一拍置いて答えた。

「さすがに探偵とか警察じゃないから……具体的な人物像はなんとも」

「そうですか」

「けど」

 俺はホットミルクに再度口を付ける。

 呑み込んで――それから一つだけわかったことを伝えた。

「死体使いは――快感で人を殺していない」

「え?」

「快楽殺人じゃない」

 見ると、シェリーは信じられないという顔をしていた。

 俺は無視して続ける。

「シリアルキラーって言葉があるだろ? ……細かい定義は忘れたけど、死体使いはシリアルキラーではあると思う――一定の期間内にたくさんの人を殺しているし……けど、殺人の動機は快楽じゃない」

「何故、そう思うんですか?」

「被害者に共通点という共通点がないから」

 俺は言った。

「専門家じゃないから、俺の考察が合っているかどうかはわからないけど……快楽殺人鬼って、基本的に被害者に共通点があるんだよ――キラー・ピエロとかテッド・バンディって、シェリー……聞いたことある?」

「名前くらいは」

「そうか」

 知っているなら――説明を省いていいか。

 二人の殺人鬼の概要は、今そんなに重要じゃないし。

「快楽殺人鬼として有名な二人――その被害者達って、共通点があるんだよ。……少年と青年しか狙わないとか、黒髪の女性しか狙わないとかな。けど、死体使いにはそれがない――えっと」

 俺は自分のスマホを出す。

 検索機能を使って――佐々木が開いていた記事を探す。

 どこだ……被害者のリストがまとめられた記事は。

「……ん?」

「どうかしましたか? かなめさん」

「いや」

 大したことじゃないけど――俺はそこで、ゆーきからメールが来ていることに気付いた。

 いつものチャットアプリじゃなくて……何故か普段使わない、ショートメールで。

 開くと本文にはこう書いてあった。

『悪い。かなえさんの電話番号を教えてくれ。できるだけなるはやで!』

「…………」

 どういう意味だろう……このメール。

 姉ちゃんの連絡先だったら……ゆーきも知っているはずだけど。

 よく見たらメールの日付はきのうだ。

「…………」

 なんか引っ掛かるけど……文面的に急いでいるっぽいし、とりあえず送るか。

 俺は一一桁の番号を送る。

 返信はすぐ来なかったから――俺は再び被害者リストを探した。

 ……と。

「あの」

「ん? どうした――って」

 気が付けばシェリーはその手に、紙を数枚持っていた。

 一番上の紙には『行方不明者リスト』の文字。

 手書きだった。

「…………」

「必要かなと思って……わたくしなりに調べて、まとめたのですが」

「……準備いいな」

 今必要だったから、ちょうどいい。

 俺は資料を受け取って、ざっと目を通す。リストは行方不明者の情報が簡潔にまとめられて、読みやすかった。

 どこで出力して来たのか……写真もあるし。

 俺は行方不明者の写真を確認して――資料を数枚テーブルの上に広げて、シェリーに見せた。

「見ろ。この街で行方不明になっている人だけど、性別も外見の特徴もバラバラだろ? 髪型や外見の美醜――死体使いは外見に固執していない」

「……でも、年齢は少年少女にこだわっていませんか?」

「一見そう見えるけど……死体使いはロンドンでも事件を起こしているんだ。俺達を襲って来たゾンビ達を思い出してみろ」

「……あ」

「そう――ほとんどが大人だっただろ? 男女比は女性が高かったけど」

 だから死体使いは、年齢に固執しているわけでもない。

 無差別――というわけでもないと思う。……何か共通点はある。けど――少なくとも外見や年齢ではないと思う。

「拠点を漁ったら、固執している何かが見付かるかなーって思ったけど……それもなかったからな」

 血だらけの拷問部屋にあった片方の靴以外――拠点はもぬけの殻。

 拷問道具とか――死体の一部とか見付かるかなって思ったけど。それもなかった。

「自分が殺して作ったゾンビに……固執しているわけでもなさそうだったし」

 これまで見たゾンビ達は――どれも生きているみたいに身体がきれいだった。

 拷問の傷らしい傷はない。

 少年ゾンビは全身血だらけだったけど……確か、外傷はなかったはずだ。

 殺した事実に陶酔しているなら――傷は残して、眺めて楽しもうとするはずだし。

 ――ゾンビ作りを『作品』と捉えている?

 いや――だとしたら少年と金髪女性のゾンビを……使い捨てるなんて戦術をしないと思う。

 拠点を潰したかったら、ゴーレムだけ投入しても――成立した戦術だ。

 何かある。

「何かあると思うんだけど……それがわからないんだよな」

「そうですね」

 シェリーは俺の発言に同意した。

 考えてもわからなかったから――そのあともう少しだけシェリーとしゃべって、俺は眠りに付いた。

 まあいい。

 わからなくても――明日には『創造物質クリエイト』の、調べ物の結果が出る。

 それですべてわかるだろう。

 たぶんだけど。

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