第二十三話 ゾンビ

 夜食用のハンバーガーを買って公園に戻ると、ベンチに座っている佐々木は、まだげんなりとしたままだった。

 コンビニに行って一足先に戻っていた『創造物質クリエイト』は、タオルが入ったレジ袋を佐々木に差し出しながら、こう言った。

「まだ気持ちわりいか?」

「……すいません」

「……吐くなら吐け。無理して堪える必要はねえ」

「いえ……別に吐くほどじゃないので、気遣いだけで大丈――うっ!」

「……無理すんなっつっただろ」

 そう言って『創造物質クリエイト』はレジ袋からタオルを出して、開封して佐々木に差し出した――両手で自分の口を押えていた佐々木はそれを受け取って、代わりに口にあてる……胃の中に何も入れていないのか、実際に嘔吐をしたわけではなかったが、えずきが止まらず、佐々木はしばらくそのままの状態だった。

 ……えずきが治まってから、佐々木は言った。

「すいません……血は見慣れているから……大丈夫だと思ったんですけど」

「見慣れていても限度はある」

 『創造物質クリエイト』は言った。

「自分では大丈夫だと思っても、実はキャパオーバーでしたなんてよくある話だ――たかが血だなんて思うな。あの量の血液……惨状は人の心を折るのに十分だ」

「……そうですね」

「……わかったなら少し休め――調査再開はお前が回復してからだ」

 はい……と。

 佐々木は力なく言った。

 地下にあった拠点の惨状を目の当たりにしたあと、俺達は各々で岸に関する手掛かりを調べた――最初は『創造物質クリエイト』が一人で調べると言って、俺と佐々木に地上に戻るよう促して来たのだが、しかし、佐々木は殲鬼師せんきしである使命感からか、『創造物質クリエイト』の命令を拒否したのだった。

「あたしも調べます」

 『創造物質クリエイト』に戻れと言われたあと、佐々木はそう返した。

「あたしにも――調べさせて下さい」

「無理すんな。お前は外で待ってろ」

「あたしは殲鬼師です」

「…………」

「魔術師や吸血鬼の被害に遭っている人がいる。何が起こっているかわからず苦しんでいる人がいるのに……その現場を目の当たりにして『何もしない』なんて選択肢は――あたしには取れません」

 その発言が決定打らしかった。

 最終的に『創造物質クリエイト』が折れる形で、佐々木は岸の拠点調査を許可された――佐々木に「好きにしろよ」と溜め息交じりに言った『創造物質クリエイト』は、そのあと俺に地上に戻るよう言って来たが、個人的に気になることがあったため、俺も『創造物質クリエイト』の命令を断って、その部屋に留まった。

 ……まあ一〇分くらい経過して、佐々木が耐え切れずその場で吐き掛けたため、「中断だ」と『創造物質クリエイト』は言って、佐々木を連れて外に出て、近くにあった公園で休ませているわけだが。

「で――お前は何してんだ?」

 と――『創造物質クリエイト』はハンバーガーを食べている俺に言った。

「何って……見りゃわかるだろ。ハンバーガー、食べているんだよ」

「……よく食欲が湧くな」

「仕方ないだろ」

 家を出る前。

 レイラに食べさせる一方で、俺自身は胃にほとんど何も入れていなかった。

「俺だって腹は減る――腹が減ったら誰でも飯を食べるだろ?」

「そうだが――そういうことを言ってんじゃねえよ」

 少しイライラした調子で――『創造物質クリエイト』は言った。

 俺の方に身体を向け直して――『創造物質クリエイト』は俺を見下ろす。

 見下すように言った。

「お前――佐々木がなんで気分を悪くしているのか、わかんねえのか?」

「……大量の血を見たからだろ?」

 俺は答えた。

「普段見ない量の血液――血の付いた子供の靴とか、拘束具の付いた椅子は……人に恐怖を与えるのに十分な要素だな。……内臓とか死体が転がっていたわけじゃないけど……逆にそれらがなかったあの部屋は、マイナスな方向に人の想像力を刺激する――あれを見て急に力が抜けたり、眩暈を起こしても……おかしなことじゃないだろ?」

「……そこまで理解してんのか」

 言うと『創造物質クリエイト』は息を吐いた。

 その溜息にどういう意味があるのか、何故ここで溜息を吐いたのか、俺にはわからなかったが、そのあと見下すような視線から完全に俺を見下した視線にシフトして――『創造物質クリエイト』は言った。

「だったらもうちょっと慮れよ――異常野郎が」

「…………」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 ……ああ。

 そういうことか。

「悪い佐々木――そこまで気が回らなかった」

 謝罪すると『創造物質クリエイト』が舌打ちして視線を逸らした――対して佐々木は、別に俺を非難しなかった。

「別に謝んなくていいわよ……あの程度のことで気持ち悪くなる、あたしが悪いんだし」

 言って、佐々木は「うぷ」と再度えずいた。

 俺は残ったハンバーガーをすべて口内に押し込んで――咀嚼して呑み込む。

 ……あの部屋を見て気分が悪くなったのはわかっていたけど、俺が食べているハンバーガーの匂いすら、だめになっていたのか。

 確かに『創造物質クリエイト』が言う通り、俺の配慮が足りない――それくらい少し考えたらわかることだ。

 未だに口元をタオルで押さえている佐々木に、『創造物質クリエイト』は言った。

「……無理すんな」

「だい、じょうぶ……です。……もうだいぶ治まったので」

「そうか――じゃあ一旦整理するぞ」

 佐々木の返事を聞くと、『創造物質クリエイト』は話題を本題に移した。

「自動車販売所の下にあった空間。あそこが岸の拠点だ――それはゴーレムがいたことと、俺達諸共潰そうとしていたあの空間が、ゴーレムの術式を応用して造られたものということから、まず間違いねえ」

「…………」

「岸は逃げた。なんで俺から逃げたのか、どこに逃げたかまではわからねえが……今までと違って、今、岸がどういう状況にあるのかわかるかもしれねえ、大きな手掛かりを得た」

 そう言って『創造物質クリエイト』は自分の足元に転がっている、二体のゾンビに視線を向けた。

 少年と金髪女性のゾンビは『創造物質クリエイト』の能力によって手足を拘束されて、目と口も封じられている。

「このガキと女……なんだ? 魔力の流れと身体に張っている結界からして……ただの魔術師じゃねえのは確かだが」

「……あたしにもわからないです――けど」

 佐々木は俺の方を向いて言った。

「あんた確かこの二人のこと……死人――ゾンビって言ったわよね?」

「ああ」

「……ゾンビだと?」

 『創造物質クリエイト』は懐疑的な目をすると、女ゾンビの首に手をあてた。

 それから目隠しを解除して――目の動きを確認する。

 じろり――と監視カメラみたいな目が、『創造物質クリエイト』を捉えた。

「心臓は動いている――が、確かにこいつは死人だな」

 少年ゾンビにも同じように触れて、目の動きを――恐らく瞳孔の動きを――確認する『創造物質クリエイト』。

「触ってわかった。こいつら、身体を徹底的に魔術で加工されてやがるな――が、こいつらはゾンビじゃねえ」

「……そうなのか?」

「ああ」

 『創造物質クリエイト』は肯定した。

「広義的な意味合いでは、こいつらはゾンビで合っている――だが魔術世界でのゾンビはブードゥー教のゾンビ、もしくはその原型となった神のことを指すんだ。……ブードゥーのゾンビは魔術的な調合薬を生者に飲ませる――もしくは死体に術式を掛けて『意のままに動く死体』を生み出す魔術なんだが……こいつらはどう考えても、そのゾンビとは『格』も『核』も違う。ブードゥーの術式を基盤にしても、ここまで機敏で丈夫な『動く死体』は作り出せねえよ――おい、お前。一体どこで、こいつらが死人だと気付いた?」

「……どこって」

「こいつらが死人であること――死体であることは、俺は今調べて気付いた……だがお前、俺みたいに触れて、精密に調べたわけじゃねえだろ? だからどうやって気付いた?」

「…………」

「……そう言えばあんた、あたしが結界を壊した時点で、この子が死人だって気付いてたわよね?」

 二人に目線を向けられて、俺は正直に答えるしかないと思った。

 馬鹿正直に答えるのはまずいと思ったので、先程少し躊躇したが――まったく説明しないのは、よりまずいだろう。

 佐々木はともかく――『創造物質クリエイト』は魔力の流れが、少し活発になったし。

 ここでいらない疑いを掛けられるのはよろしくない。

 そう思って俺は言った。

「……前に襲われたことがある」

「……なんだと?」

「そっちの金髪の女性――子供の方は今日初めて見たけど……その女性は前に襲って来たゾンビ――死人のうちの一人だ。『創造物質クリエイト』――お前と初めて会った帰りの夜、俺んの森で、俺はこいつを含めた一〇体のゾンビに襲われた。……こいつらがゾンビだってのは、その時に観察して気付いたんだよ」

「…………」

「ちょ――あんた、なんでそのこと早く言わないのよ⁉」

「……あ? 逆になんで話してもらえると思ったんだよ?」

 剣呑な視線で黙って睨んでくる『創造物質クリエイト』と対照的に、声を荒げた佐々木に、俺は言った。

「お前らはいつ俺の仲間になった? 『創造物質クリエイト』は岸に依頼されてこの街に来ただけだし……佐々木は『上』に命令されて、まだこの街に滞在しているだけだろ? お前らは俺とレイラの味方でも……仲間ってわけでもない」

「……仲間じゃないって――いや、確かに、それはそうだけど」

「仲間でも味方でも――家族でもないやつに、なんでも共有するほど俺が素直に見えたか? するわけないだろ?」

「…………」

「…………」

「…………」

 俺の言葉に、佐々木と『創造物質クリエイト』は何も言わなかった。

 佐々木は頭ではわかっていたが――納得していないような顔をしていて。

 『創造物質クリエイト』は――何を考えているかわからなかった。

 ただ――剣呑な目付きで俺を見る。

「……まあいい」

 と。

 そう言って沈黙を破ったのは、『創造物質クリエイト』の方だった。

 白い吸血鬼は言った。

「お前が俺を信頼していないのはわかっていたことだし――俺も別に、お前を信頼しているわけじゃねえ。……だから別に、お前が隠し事をしていたことに、文句はねえ」

「そうかよ」

「ああ――だが今は協力しろ」

 『創造物質クリエイト』は命令口調で言った。

「お前が俺をどう思っていようが構わねえ。そりゃお互い様だからな……だが、今はこの街で起こっている事件の解決。それが最優先事項だ――わかったな?」

「ああ」

 人が何人行方不明になっていようが、はっきり言ってどうでもいい。

 岸とその部下が今どういう状況で――ゾンビを操る魔術師と、どういう関係であっても。

 けど――ゾンビを操っている魔術師は、明らかに敵意を持って、俺を襲って来た。

 俺の生活を侵害するなら――俺は対応するだけ。

 そう思ったから、俺はそう答えた。

「じゃあ質問に答えろ」

 同意したのだから今この場面は「いい返事だ」とでも言って、少し笑みを見せながら質問をして来てもいいと思うのだが、『創造物質クリエイト』は変わらず、剣呑なままの表情で訊いて来た。

「お前、これまで何回、こいつらに襲撃された?」

「一回だけだ」

「……その時に気付いたことはあるか? どんな小さなことでもいい」

「こいつらは瞬きをしない。声に抑揚がない。うわ言を発するけど意思の疎通はできない」

「……それは俺も気付いたな――ほかには?」

「……そういや」

 俺は佐々木の方を見て言った。

「気付いたのは俺じゃなくて佐々木だけど――そっちの子供。二〇人いる行方不明者の、一人らしいぞ?」

「……なんだと?」

 『創造物質クリエイト』は佐々木に目を向けて確認を取った。

「本当か? 佐々木」

「はい……間違いないです――えっと」

 佐々木はそこでスマホを出して、何やら操作をする。

 数秒して彼女は言った。

「あった――田中翔太くん……三日前に行方不明になっています。これ、行方不明者について特集された記事です」

 差し出されたスマホを『創造物質クリエイト』は受け取った。

 そして画面に映し出されている少年の写真、記事の内容を確認して――それから再度、少年ゾンビの目隠しを外した。

 顔を確認する。

「……確かに本人だな。身長も行方不明時の服装も一致している――じゃあ行方不明事件を起こしているのは、死体遊びをしている魔術師で……岸はそのクソヤロウと行動を共にしているってことだが……だとしたら妙だな」

「何が」

「岸がそいつと行動を共にしていることがだ」

 『創造物質クリエイト』は神妙な顔をして言った。

「前に言ったが、岸は一般人をこちら側に巻き込むことを良しとしない――魔術師でも珍しいくらいお人好しな人格をしてんだ。……俺はてっきり、部下の誰かが捕虜にでもなって、岸は強要されて仕方なしに人攫いをしていると思っていた……だが、自分が攫った一般人がこんな仕打ちをされていると知っていたら、あいつは素直にそんな指示に従わない。なんなら相打ち覚悟で自分を利用する魔術師を殺して、部下を助け出す――少なくとも俺が知る岸の人物像は、そんな人間だ」

「…………」

「だが――今の岸は、積極的に死体使いに協力しているように見える」

 自動車販売所に現れたゴーレムは、間違いなく岸の物だった。

 建物ごと俺達を潰そうとしたのも岸の仕業。

 拠点を作成したのも岸の魔術によるもので――更に俺達が見た、拷問部屋にあった石でできた椅子も、岸の魔術によって作られたものだそうだ。

「自分が攫ったガキが拷問の末に『動く死体』にされたと知ったら、あいつならまず間違いなくブチ切レる――状況証拠的に、岸が死体使いの所業を把握していないとは考えにくいが……把握していて協力している理由がわからねえ」

 そう言うと『創造物質クリエイト』は考え込んでしまった。

 黙って少し下を向く。

 ……前々から思っていたが、『創造物質クリエイト』は岸という魔術師に対する評価が、かなり高いように思える――魔術師としても。一人の人間としても。

 たぶん、それなりの付き合いがあって、認めている人物だからこそ、そういう思考になっているのだろうが――そんなことよりも俺は、ゾンビを操る魔術師が、誰なのか気になっていた。

 だから俺は訊いた。

「なあ……ゾンビ使いが誰なのかはわからないのか?」

「さっきも言ったがこいつらはゾンビじゃねえ……が、そうだな。確かに今はこいつらを操る魔術師が誰なのか……考えた方が賢明か」

 ちらっ――と『創造物質クリエイト』は少年と女性のゾンビを見る。

 それからゾンビ使いの候補を説明した。

「考えられる候補は二つ。岸達と『神裂家』以外の魔術師がこの街を訪れていねえとなると――岸の部下か『神裂家』の連中……の内の誰かしかあり得ねえな」

「……じゃあ、『神裂家』の連中か?」

「いや」

 どちらかと言えば岸の部下よりも『神裂家』の連中の方がゾンビ使い――死体使いの魔術師である可能性が高いと思って訊いたが、しかし『創造物質クリエイト』は俺の推測を否定した。

「『神裂家』の連中は考えにくい……これも前に言ったが、やつらは今、逃げ出した兵器の回収に必死なんだ――やつらは今この街にいねえ。だが事実として、三日間で二〇人も児童が行方不明になっている。見付かってねえだけで被害者はもっといるかもしれねえが……死体使いが駒を増やすために人攫いをしてんなら、必ずこの街に滞在している――だから『神裂家』の連中の誰かが死体使いとは、考えにくい」

「じゃあ」

 残る候補は――岸の部下の誰か。

 『神裂家』の連中の誰かが死体使いじゃないとなると――候補は岸の部下達しかいない。

 ……と思ったのだが、『創造物質クリエイト』はこの可能性も否定した。

「いや、岸の部下達はもっと考えにくいな」

「あ? なんでだよ?」

 俺は言った。

「岸達と『神裂家』以外の魔術師は、誰もこの街に来ていない。今、『神裂家』の連中が物理的にこの街にいないなら、死体使いの魔術師は部下の誰かで確定だろ? 確かに資料には、死体を操る魔術を持つ魔術師がいるなんて情報はなかったけど……そんなの記載がなかっただけで、実は部下のうちの誰かが、そういう魔術を持っていたってだけの話だろ?」

「それは俺も考えた……が、それはあり得ねえんだよ――ケイティ・ジェーン。ロラン・バジュラール。清純きよずみ・J・コンダー……岸が連れて来た部下の三人。岸と同様に『教会』所属の魔術師である三人は――つーか三人に限らず、『教会』に属する魔術師は……基本的に死体操作の魔術を持つことを、許されねえんだ」

「……なんで?」

「……『教会』の教義に反するから――ですよね?」

「そうだ」

 そこでずっと黙っていた佐々木が口を挟んで来た。

 佐々木は説明してくれた。

「『教会』が宗教色の強い組織だって説明は、前にしたわよね? あんた聖書とか読んだことなさそうだから、滅茶苦茶ざっくり説明するけど――『教会』の教義では『最後の審判』の時に、全人類が土の中から蘇るって言われているの。……で、この『復活』は彼らが信じる神の御業みわざ――だから死者、もしくは死体を操る類の魔術は、『教会』では禁忌にされているの」

「その通りだ――だから死体操作の魔術を扱うって知られたら……つーかそんな術式を持っている時点で、『教会』じゃあ破門どころか、即処刑される」

「…………」

「仮に部下の誰かが死体操作の魔術を持っていて、それを『教会』の上層部に見付からないよう、今の今まで隠し通していたとしても――岸がそれに目を瞑るとは思えねえ。あいつなら術式を取り上げて封印する。そしてそのまま部下を処刑しないとしても……まあ、指導くらいするだろうな」

「……じゃあ、もう候補いなくないか?」

「ああ、そうだな」

 俺の言葉に『創造物質クリエイト』は同意した。

 ……いやいや。同意してどうする。

 一瞬、『創造物質クリエイト』は死体使いが誰なのか考えるのをやめて、適当になったのかと思ったが……しかしそういうわけではなかった。

 無機質な白さを持つ吸血鬼は、自分の顎に右手をあてる。

「……ほかの魔術師は現状見付かってねえ。『神裂家』じゃねえとなると……やっぱ一番可能性が高いのは岸の部下の誰か……もしくは全員だが……ケイティ・ジェーン……ロラン・バジュラール……清純きよずみ・J・コンダー……ジェーン……バジュラール……コンダー」

 苗字が何か引っ掛かるのか、部下三人各々の名前を呟く。

 少し黙って、自分の能力で生み出した布上の白い物質と、同じく白い縄のような物質で手と口を縛られている女性ゾンビの方を見て――それから『創造物質クリエイト』は、何かに気付いたようだった。

 また女性ゾンビの目隠しを外す。金髪女性の顔をじっと見て……それからスマホを取り出して、『創造物質クリエイト』は何かを調べ始めた。

 スクロールする指を止めて、『創造物質クリエイト』は言った。

「間違いねえ……この女。ロンドンで起こっている行方不明事件――その被害者の一人だ」

「え……本当ですか⁉」

「ああ――『教会』に渡された資料に、こいつの顔がある」

 『創造物質クリエイト』はスマホの画面を見せる。

 確かにそこには――生前のものと思われる、金髪女性の写真が載っていた。

「お前……こいつらに見覚えはあるか?」

 そう言って『創造物質クリエイト』は新たに、五枚の顔写真を見せて来た……察するにこの五人は、ロンドンの誘拐事件の被害者なのだろうが……全員が見覚えのある顔だった。

「……あるな。全員、俺を襲って来たゾンビに似ている」

「――ここで繋がるのか」

 『創造物質クリエイト』はその可能性を考えてなかったように言った。

「ロンドンの行方不明事件と、この街で起こっている行方不明事件は繋がっている……つーか、同一人物が起こしていると見て間違いないだろうな。……そしてロンドンで起こっている事件は、『教会』所属の魔術学校――部下達が通っている学校周辺で起こっている」

「…………」

「悪いが……少しだけ時間をくれ――『教会』に確認したいことができた」

「別にいいけど……何を確認するんだよ?」

「ロンドンの行方不明事件の詳細と――部下三人の人間関係」

 『創造物質クリエイト』は。

 道筋が見えて来たとでも言うように言った。

「死体使いが誰か――わかるかもしれねえ」

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