第十六話 迷子
ケイティ・ジェーン。
性別、女性。
年齢、一八歳。
『ロンドン教会付属魔術学校』所属。
水色の刀身をしたロングソードの『霊装』を武器とする。『霊装』の名称は不明。
水の魔術を得意とし、水面を走ることができる。
ロラン・バジュラール。
性別、男性。年齢、一八歳。
同じく『ロンドン教会所属魔術学校』所属。
橙色の刀身をしたバスターソードの『霊装』を武器とする。こちらも『霊装』の名称は不明。刀身から炎を放つことができる。
性別、男性。年齢、二一歳。
同じく『ロンドン教会所属魔術学校』所属。
使用する『霊装』は不明。治癒魔術を得意とするほか、現代医学にも通じる。
「……情報これだけか? 三人合わせて一ページもないけど?」
「仕方ないでしょ――部下達の情報は『教会』から得た情報しかないの。……『教会』の連中達、ちゃんと情報渡して来てないのよ」
「……そういうことか」
説明されて、俺は渡された資料に再度目を落とした。
この資料は『
「…………」
A4サイズの用紙を捲って、俺は二枚目の資料に目を通す。
二枚目にはシェリーの情報が記載されていた。
『
性別、女性。
年齢、二〇歳前後。
ヴァンパイア・ハーフ。
『魔術師殺し』で有名な吸血鬼のみで構成された組織、『三人の女吸血鬼』のメンバーであり、現存する吸血鬼の脅威度ランキングは第七位。
影のようなものを実体化させて、操作する能力を持つ。
「……影」
俺はおとといの夜を思い出す。
確かにあの時シェリーが握っていたあれは――影を実体化させたような武器だった。
……その下の文には、シェリーの能力について記載されていた。
実体化した『影』は非常に殺傷能力が高く、物理、魔術を問わず、並みの防御手段では防御不可のもよう。
『多重装甲型駆動結界』も貫通した実例があり――しかし防いだ事例もあり、現在も理由は不明。
「…………」
『
半吸血鬼のため、第三位『
前述した『影』の殺傷能力は非常に高く脅威ではあるが、『身体能力強化』を含めて本人の性能は高くないため、『
『
どちらも複数の死者を出した惨劇だが、どちらの事件も中心にいた吸血鬼は『
二つの事件の詳細については別紙参照。
「……こっちでも一応調べたけど」
と。
書かれている資料を読んでいると――佐々木がぽつりと言った。
その言葉で俺は読むのを止めて、視線を佐々木に移す。
彼女は次の目的地を確認していた。
「三人の情報はほとんどヒットしなかったわ。……岸が部下に選んで連れて来るくらいだから、優秀な魔術師ではあるんだろうけど」
現在、俺と佐々木は次の目的地に向かうため、俺の普段の行動範囲から外れたところに位置する、大型のデパートに向かっていた。
もう既に何件か拠点候補地を回ったあとであり、次の目的地のすぐ近くまで来ている。
……きのう回った範囲は、すべて空振りにおわったため、今日はもう少し範囲を広げて調査をしているというわけだ。
――と。
「ん?」
視線を感じた。
俺は周囲を一度見渡す――大型デパートへと続く道中のためにそれなりに人はいるが、道が混雑していると言えるほど、人の密集度合いが高いわけではなかった。
別に特別――こちらを注視している人はいない。
ちらちらと見てくる人は何人かいる――けどそれくらいで、みんなすぐ視線を外して歩いていた。
視界の端で雀くらいの大きさの鳥が飛び立つ。
アルビノなのか元々そういう色なのかはわからないが、全身が白い鳥だった。
視界の端からそれが消えて――俺はもう一度周囲を見渡した。
魔力の反応はなかった。
「………」
なんか……きのうも似たような感覚があったよな?
なんだ?
佐々木は何も感じていないみたいだけど……俺の勘違いか?
わからなかったため俺は佐々木に訊いた。
「なあ佐々木」
「……何よ」
「お前――今何か感じなかったか?」
「は? 何かって何よ? ……ん?」
「何かは何かだよ。……まあ何も感じないならいいけど――ってあれ?」
よそ見しながら歩いていたが、視線を前に戻すと佐々木の姿はなかった。
目の前にいない。
どこに行った――と思って再度視線を動かすと、佐々木は少し離れたところにある、デパートの入り口付近にいた。
佐々木の目の前には女の子――小学校低学年くらいの女の子が俯いて、自分の目を手で擦っていて……俺には泣いているように見えた。
「……どうした? 迷子か?」
「そうみたい」
近くまで寄って訊くと、一足先に近付いて女の子に話し掛けていた佐々木がそう答えた。
泣いている女の子になるべく視線を合わせて――佐々木は言う。
「ねえきみ、名前はなんて言うの? お姉ちゃんに教えてくれる?」
「……う、ひぐ……あさい……ひなこ……」
「そう。ひなこちゃんって言うのね――お母さんとはどこで離れたか覚えている?」
「…………うう――わかんない」
「……そう」
女の子は自分がどこで迷子になったのか、自分でもわからないらしい。
聞くと女の子は母親と一緒に買い物に来たらしいが、どうやら気が付いたら、お母さんの姿が見当たらなくなった――とのことだった。
聞き取りを終えたあと、佐々木は姿勢を戻して言った。
「この子の親を探すわ」
「……あ?」
一瞬何を言っているのかと思った。
そのため、俺はこう言った。
「……なんでだよ? 交番に預けたらいいだろ?」
「ちょっと探して、見付からなかったらそうするわ――別に嫌なら、あんたは手伝わなくていいから」
「……はあ」
息を吐いてから、俺は目を閉じる。
……なんで今、そんなことをする――いや。
別に人助けに価値がないとも、道端で泣いている女の子への対処は無視が正しいとも思わないけど……別に今、お前が手を差し伸ばさなくてもいいと思う。
手掛かりが何も見付かっていなくて――余裕なんてないはずのお前が。
……と思って目を開けると――佐々木は俺の存在を無視して、女の子に話し掛けていた。
「ひなこちゃん。もう泣かなくていいわよ? お姉ちゃんが一緒にお母さんを探してあげるから」
「……ぐす。うぅ……ほんと?」
佐々木の言葉に、女の子は顔を上げた。
泣いていたため、目の周りが赤くなっている。
レイラよりも幼い――弱々しい顔。
その顔を見ながら、佐々木は力強い言葉を掛けた。
「本当よ――絶対に見付けるから」
佐々木は言った。
「だから立ち上がって、一緒に探しましょ?」
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