第十五話 事件の進展
それから俺達は教会に行き、廃墟を数件回ったが――手掛かりという手掛かりは見付からなかった。
すべて空振り。
「何か手掛かりはあったか?」
「いえ」
午後五時になり待ち合わせ場所の喫茶店で、眺めていたスマホの画面から視線を外してそう言った『
「拠点候補を一五ヶ所ほど回りましたけど、岸達がいた痕跡はどこにもありませんでした――街の龍脈地脈も異常はなし。……何ヶ所か調べましたけど、魔術的な痕跡はなかったです」
「そうか」
佐々木の言葉を聞いて『
興味なさそうな反応にも見える――しかし、そういうわけではなかった。
「こっちは岸との待ち合わせ場所近辺を探索しながら、『教会』に問い合わせて情報を集めた――部下達の経歴と使用する魔術……この二つはわかったが……ほかはどうでもいい情報ばかりだな」
右の親指でスマホの画面をスクロールしながら、『
「『
「……『
「ああ――今の『教会』のやり方が気に食わねえって、反乱を起こして失敗した魔術組織だな。……その残党を『
どうでもいいがな――と、『
「『
「……『
「調査中――らしいが……まあ、関係ねえだろうな」
「……なんで断定できる?」
「行方不明者のほとんどが一般人だからだ」
俺の疑問に『
「被害者全員が魔術師ならともかく、この事件で魔術師の行方不明者はたった一人だ――あの女は相当な理由がねえと、一般人を襲わねえ」
「…………」
「なんだ? 納得してねえ顔だな?」
「まあ――納得はしていない」
俺は正直に言った。
「お前が知っているかどうか知らないけど、『
『連続女性変死事件』。
俺が吸血鬼になって起きたこの事件は、『
この事件で五人の人間が死んだ。事件の計画自体は俺かレイラに殺されることが目的だった、『第一の眷属』が立案したと思われるが……実際に殺人を実行したのは『
あの女吸血鬼は人を殺すことに躊躇がないし――以前俺と戦った時に『第一の眷属』がなかったことにしたとはいえ、突然乱入して来たゆーきのことも、一度殺している。
「クリーチャーズが人を襲わないのは、『
「そりゃお前がこの街にいるからだ」
否定すると、『
「あの女は復讐のために生きている。『革命戦争』の中心にいた『人外殺し』と『
聞いて否定する要素を探したが、確かに考えてみたら、その理屈が通っているなと思った。
確かに――『
……だとしたら少し引っ掛かるところがあるけど――まあ今は無視したらいいか。
本題はそこじゃない。
「まあいいや――とりあえず『
「正確には関係性が今のところ見当たらない――ってだけだ。まあ――」
『
「いや――やっぱりなんでもねえ」
と言って、何か言うのをやめた。
気になったので俺は訊いた。
「……なんだよ。そこで止められたら気になるだろ?」
「気にすんな――一瞬関係あるかと思ったが、根拠薄弱だったから言うのをやめただけだ。……この件についてはもっと情報を集めて、精査してから話す」
「……そうかよ」
「ああ――じゃあ解散するぞ」
そう言うと『
テーブルの上に置かれたカップの中身は、すべて飲み干されている。
『
「俺は引き続き調査に戻る――お前らはどうする?」
「あたしも戻ります。……まだ候補地を、すべて周ったわけじゃないですし」
「……お前は?」
「俺は帰って飯だ」
こちらを見下ろす『
「レイラが待っているし」
あと――シェリーも待っている。
さすがにそれは言っていないが――そのあと『
「頼むぞ」
席を離れる前に、『
その発言はレイラとエンカウントしないようにちゃんとしろよ――という意味で言ったのだろう。
そのあと店を出る時、二人は何も言わなかった。
「うーん」
場所が変わって森の中。
自転車のペダルを漕いで、家に帰っている最中。
俺は本日収集した情報を整理していた。
「……新しい情報はなしか」
特に進展はなし。
海の向こうで『
……いや。
情報はあったけど、俺が訊かなかったというのが正しいな――『
「……訊いたらよかった」
きのうと同じ獣道で自転車を降りて、そこから歩く。
「根拠薄弱だって言っていたけど、あいつ、何か関係ある情報持っていたっぽいし……『
「『
「うお」
素で驚いた。
気付いたら俺の隣には、いつからそこにいたのか、いつもの黒いドレスを着たシェリーが立っていた。
肩まである黒髪に金色の瞳。
白い肌。
「……シェリー?」
「はい。シェリーです」
にっこりと。
柔らかな笑みを浮かべるヴァンパイア・ハーフの女性――シェリー・ヘル・フレイムさん。
「びっくりした……全然気配感じなかったぞ」
「ふふふ。わたくし、気配を消すのが得意なんです」
「そうなのか」
今は魔力を感じる。
隣にいるのに気付くまで、一切感じなかったけど。
「で――なんでシェリーは、今日もここにいるんだ? また家にいるのが耐えられなくなったとか?」
「えっと……はい」
きのうと同じように外で会ったので、訊くとシェリーは、そう肯定した。
「……それもありますが」
「ん?」
「今日は……かなめさんに早く会いたい――と思ったので」
「……そうか」
レイラとずっと一緒にいるのは気まずいから、そう思ったのだろう。
俺は帰ったら訊こうと思っていたことを訊いた。
「昼間、レイラは何していた?」
「はい。ずっと寝ていました」
「そうか」
俺はシェリーと一緒に歩く。
共に家に向かいながら、シェリーはこう質問して来た。
「ところで……先程『
「ん? ああ、実はな」
俺は今日あった出来事を話した。
佐々木と一緒に街中を回ったこと。
きのうと同じように、喫茶店で話をしたこと。
『
「で――確か『
「……それでしたら。わたくしに訊いてくれればいいのに」
「ん? まあそうか」
話しの最中に名が挙がったから気になったけど、別段今知りたかったわけではない。
訊くつもりはなかったけど、そう言われたらせっかくだし訊こう――と俺は思った。
「『
「うーん……まあ、概ねその通りですわ」
以前聞いた『
「淫婦。毒婦。あばずれ。男を堕とすことを生きがいにしているサキュバス……それが『
「酷い評価だな」
「事実です」
シェリーは毅然と言った。
……毅然と言うか――少し不愉快そうに。
「そういう方なのですよ……『
「……もしかしなくてもシェリー、『
「はい――嫌いです」
間髪入れずシェリーはそう答えた。
「仕事柄、報復や風評被害は日常茶飯事なのですが……それが『
「……確かに、それは迷惑だな」
「はい。迷惑極まりないです」
そう言ってシェリーは一度空を見上げる。
夏は冬に比べたら日が出ている時間は長い。しかし木の葉が生い茂っているのもあって、俺とシェリーの周囲はかなり暗くなっていた。
空を見上げて何を思っているのかはわからないが――暗く染まって行っている空から視線を外して、シェリーは言った。
「いいところもあるんですけどね。……わたくしと違って家事万能ですし……『
「『
誰だっけ。
名前は憶えているけど、特徴という特徴が出てこない。
確か、『
……と思って上を向いていると、シェリーが解説してくれた。
「『
「へえ……つーか、三位の『
「『
「そうか」
どうやらシェリーが所属する『三人の女吸血鬼』は、実力で序列が決まっているわけではないらしい。
「わたくし、両親を小さい時に亡くしているんです……炎に包まれる街から、お母様に逃がされて……それから『
「育ての親ってやつか」
「はい。世界で一番尊敬しています」
「そうか」
頷く。
それからシェリーは、『
『
脅威度の序列で言えば『
『
『
『
シェリーにとって二人が、大切な存在だとわかるほどには。
「……ところでかなめさん、本日は有力な情報を得なかったとの話でしたが……明日からどうするのですか?」
「ん? ああ……ってあれ? 俺それ言ったっけか?」
「いえ? 言ってないけど聞いていました」
「……そういうことか」
知っているから変に思ったけど、そこから独り言を聞いていたのか。
俺は少し考えて言った。
「まあ……岸達の部下の情報とか、今日訊き忘れた情報は明日訊くつもりだよ」
「そうですね――それがいいと思います」
「あと、ゾンビを操る魔術に心当たりがないかも訊きたいけど……この辺はできたらだな。俺がいきなりゾンビについて訊いたら、不自然に思われるだろうし」
「はい。賛成です」
俺とシェリーは明日の打ち合わせをしながら帰宅する。
今晩はハヤシライスを作った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます