第二十一話 対決

 家を出て反応があった場所に行くと、『第一の眷属』と複数のクリーチャーズが広場を陣取っていた。

 『魔獣女帝エキドナ』の姿は見当たらない。

 『第一の眷属』と――あるのは八種のクリーチャーズ、一頭ずつの姿だけだった。

「やあ」

 と。

 俺が到着するなり、『第一の眷属』は話し掛けて来た。

「待っていたよ。レイラは……いないのか――てっきり連れて来ると思ったけど」

 その言葉を聞いて俺は周囲を見渡した。

「『魔獣女帝エキドナ』は」

「……ん?」

「『魔獣女帝エキドナ』はいないのか?」

 訊くと、『第一の眷属』は「ああ」と呟いた。

「彼女はここにはいないさ……いたら邪魔になるからね」

「……そのクリーチャーズはどうした?」

「ん? ああ、この子達かい?」

 言って、『第一の眷属』は隣に立つ、三つ首の狼を横目で見る。

 それから言った。

「借りて来た」

「…………」

「まあ、この子達は保険だ。使う機会がなければ、それでいいんだけど――」

 と言ったところで、その狼が『第一の眷属』に襲い掛かった。

 三つある首の内の一つが、『第一の眷属』の頭部に噛み付こうとする。

 しかし。

 そう言うと噛み付こうとした頭は、牙を突き刺す寸前で動きを止めた。

 ……ぴくぴくと、自分の意志とは反するように、狼の身体は震える。

 『第一の眷属』は気まずそうな表情をした。

「……一応僕の支配下にあるんだけど、『魔獣女帝エキドナ』の『絶対命令権』を一時的に譲渡してもらっているだけだからね――完全に服従しているわけじゃないのさ」

 そして言い訳するようにそんなことを言った。

 ……と――そこで二つの大きな魔力反応があった。

「……ん?」

「『灼炎の鎚ニョルニル』‼‼‼」

「『巨狼封じの紐グレイプニル』‼‼‼」

 俺と『第一の眷属』が反応のした方に目を向けると――『第一の眷属』とクリーチャーズの周りを繊維が覆って、結界を象った。その結界は今までと違って赤い色をしており、展開すると同時に紅蓮の十字架が結界を透過して、『第一の眷属』に直撃して、

「――『特盛ラップ』‼‼‼」

 大爆発が起こった。

 俺が喰らった時よりも遥かに多い光量と、衝撃を全身で感じる。

 熱は特に感じなかったが――潰れた目が戻ったあと見ると、赤い結界は壊れておらず、その内部に『第一の眷属』とクリーチャーズの姿はなかった。

 あるのは残火のみ。

 ――だったが。

「『後悔先に立たずリセット』」

 その声と同時に――結界内に『第一の眷属』とクリーチャーズの姿が現れた。

 当然のように傷はなく、結界も気が付けばなくなった。

「君達の攻撃をなかったことにした。……まったく、いきなり攻撃してくるとは野蛮だな」

 野蛮と批判しつつも大して気にしていなさそうな顔で、『第一の眷属』は笑う。

 それから俺の目の前に降りて来た二人に目を向けた。

 空からゆっくり着地した二人に、俺は話し掛けた。

「お前ら……なんでここにいるんだよ?」

「先輩から連絡があったのよ」

 訊くと、佐々木がそう答えた。

「あんたを助けてくれって」

「……ああ」

 察した。

 恐らく俺が電話を切ったあと、姉はすぐ二人に連絡したのだろう。

 だから二人はこんなに早く、ここに到着したのだ。

「まったく何考えてるのよあんたは――先輩から作戦聞いたんでしょ? だったら遂行されるまで大人しく待ってなさいよ」

「そうだよかめくん――かめくんの所為で余計なお仕事増えたじゃん」

 二人は前を向いたまま、嫌味っぽくそう言った。

 その言葉に俺は返答する。

「そりゃ確かに申し訳ないけど……嫌なら来なきゃいいだろ」

「「先輩に頼まれたから無理」」

「……ああそう」

 どうやら俺の姉は、後輩からの信頼が厚いらしかった。

 ……助かる、助かる。

「……『魔獣女帝エキドナ』は?」

 佐々木は少し周囲を見渡すようにして言った。

 ……やっぱ因縁があるから、そこは気になるよな。

「この場にはいないな」

「……そう」

 残念そうにも、どうでもよさそうにも聞こえる声色で、佐々木はそう言う。俺にはどちらかわからなかった。

「で、どうするつもりなのよ? ……あんた勝算あるわけ?」

 佐々木の質問に俺は答えた。

「――お前らはクリーチャーズの相手をしろ」

「……は?」

「……かめくんはどうするの?」

「俺はあいつの相手をする」

「はあ?」

 言うと、佐々木と海鳥は信じられないような顔をして振り向いた。

「一人でって……あんた、それ本気で言ってるの?」

「冗談で言っていると思うか?」

「…………」

「心配しなくても勝算ならある。……『第一の眷属』だけだったら倒せる。一対一だったら――あいつは俺でも倒せる。俺なら倒せる」

「……嘘じゃないでしょうね?」

「ここで嘘を言ってどうする?」

 そう言うと、佐々木は呆れたように息を吐いた。

 何かを考えるように少し固まって……そのあと半信半疑な様子で俺から『第一の眷属』に視線を戻して、佐々木は言った。

「……本当にあんた、一人で倒せるのよね?」

「ああ」

「……わかったわ」

 てっきりもっと反対されると思ったが、佐々木はそれ以上何も言わず、『第一の眷属』の方を向いたまま、海鳥に話し掛けた。

「さつき、移動するわよ――あいつは神崎かなめに任せる。あたし達はクリーチャーズを処理するわよ」

「……リアちゃんいいの?」

「……まああたし達じゃあ、『第一の眷属』に有効打はないし」

 ――こいつがいいって言うなら、あたし達はクリーチャーズの相手をするわよ。

 と言って、佐々木はふわっと宙に浮く。

 海鳥が大ジャンプをして、先にどこかに跳び去った。

 続けて佐々木も飛び去る。

 しかし飛び去る前に、彼女は俺に一言こう言った。

「死ぬんじゃないわよ」

 その発言に、俺は言い返した。

「誰に言っているんだ、お前」

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