第二十話 狼煙

 姉と電話で話していると、外からゾクッと悪寒がした。

 俺は外に意識を向けて、悪寒を放った気配を探る。

 外には大きく分けて二種類の反応があった。

「……噂をすればか」

『……かなちゃん?』

「『第一の眷属』と『魔獣女帝エキドナ』が来た」

『……っ⁉』

 言うと、姉の息を呑む声が聞こえた。

 続けて姉は言う。

『かなちゃん、ダメよ?』

「ごめん。悪いけど守れないから」

『かなちゃんっ‼‼‼』

 叫ばれたが俺は通話を切った。そのあとすぐさま通話が掛かってくるが、俺は出ずにスマホの電源を切る。

「レイラ」

「…………」

 そのあとレイラの方を見ると、彼女は顔面蒼白になっていた。

 レイラが能力を発動した時に感じる悪寒と似たような感覚と、クリーチャーズのものと思われる魔力反応が複数。

 俺と同じく、レイラもそれを感じ取ったのだろう。

 レイラが能力を発動した時のような悪寒の正体は――もちろん『第一の眷属』だ。

 動揺しまくって硬直しているレイラに俺は言った。

「レイラ――お前は家で待ってろ。飯は全部食っていいから。わかったな?」

「……かなめは?」

「俺は――ちょっと外に行ってくる」

 そう言って俺は立ち上がる。

 そうして背を向けてリビングを出ようとすると――そこでレイラに背後から抱き着かれた。

「……レイラ?」

「…………」

 レイラは何も言わない。

 ただ抱き着いて無言を貫くため――俺は腰に回された腕をゆっくり解いた。

 それから膝をついて、レイラの手を握って言う。

「心配するな。すぐ帰ってくるから」

「……本当に?」

「ああ」

 絶対なんて強い言葉は使わない。

 必ず帰れる保証なんて――どこにもないから。

 けど、それでも俺は言った。

「俺は毎日あの扉から戻って来ていただろ? 今日も変わらないから、安心しろ」

「……うん」

「……いい子にできるか?」

「……うん」

「よし――じゃあ帰ったらデザートを食べよう」

 一向に曇った表情のまま変わらないため、俺はレイラの感情を変えるためそう言った。

「アイスキャンディーを作ってあるから、帰ったら一緒に食べるぞ」

「……あいすきゃんでぃーってなんじゃ?」

「それは楽しみにしとけ」

 俺が帰ってからのお楽しみ――と言って、俺はレイラの頭を撫でて、廊下に繋がる扉を開ける。

「ちゃんと待っているんだぞ?」

「……うん」

 最後まで不安そうなレイラの瞳を見ながら、俺は扉を閉めた。

「……さて」

 それから玄関に向かって。

 俺は自分に宣言した。

「早く帰らないとな」

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