第十一話 リセット
『
引き抜かれた胸から、口から吐かれた物とは比べ物にならない量の血液が放出される。
ゆーきの目からはすでに光が失われていて――その四肢は弛緩してだらっとしていた。
「ゆーくん‼‼」
「『
海鳥と佐々木はゆーきの背後に立つ『
海鳥は右手にワイヤーを展開して。
佐々木はどこからか降って来た、十字架を左手でキャッチして。
……『
「ほらよ」
「「ッッッ‼‼⁉」」
光を失ったゆーきの身体を二人はキャッチしようとする。
そんな二人を『
「『
そう言って回し蹴りをゆーきに叩き込もうとする『
海鳥は左手を、佐々木は右手を伸ばしてゆーきの身体を――死体をキャッチをしようとしたところを狙って、『
二人がゆーきを気にしなければ、あたるはずのない一撃だが――二人が無視できないことを利用した、戦略的な一撃。
それがゆーきの肉体諸共二人に叩き込まれようとしていたが――しかし、『
「⁉」
『
吹っ飛ばされた『
それから自分を吹っ飛ばした『人物』に警戒の目を向けた。
「あぁ? ……こりゃ意外な人物の登場じゃねえか」
『
それから自分を吹っ飛ばした人物の名を呼んだ。
「『第一の眷属』」
『第一の眷属』。
白銀の髪に、金と
俺と同じレイラの眷属で――俺の前任者。
『第一の眷属』はゆーきの身体が倒れないように左腕で支えていた。
こちらからは見えないが、『第一の眷属』はもう自力では立ち上がらない男の身体を片腕で受け止めて、『
「よお……こんなところで会うとは奇遇じゃねえか? 何しに来たんだ?」
「…………」
明らかに悪意を持って投げられた『
風穴の空いたゆーきの胸に、『第一の眷属』は右手をあてる。
それから言った。
「『
その瞬間、ゆーきの損傷は無効化された。
風穴の空いていた胸は衣服もろとも塞がり、血液は一滴もこぼれておらず、周囲は血で一切汚れていなかった。
その様子を見た『
「はっ――死体の傷を直してどうすんだよ?」
「……はあ」
挑発するように言う『
その瞬間にゆーきは息を吹き返した。
「う――げほっ! げほ……げほっ‼ ……あれ、俺なんか寝てた?」
「……あ?」
「え?」
「なっ」
ゆーきが生き返ったことに、女性三者は似たような顔をした。
損傷を無効にされた本人は何が起こったのかわかっていない顔をしているが。
『
「……どういうことだ? そのガキは確実に死んだはず……なのに何故生きていやがる?」
「…………」
『
ただ軽蔑するような目で『
自分の質問に答えない『第一の眷属』に、『
「……まさかてめえの『
怒気を含んだ口調で『
確かに即死したはずのゆーきが息を吹き返したことには驚いたが――俺はそれよりも、『第一の眷属』がこの場にいる事実から察した事柄の方が、衝撃的だった。
いつまで経ってもレイラがこない理由。
唐突に小さくなったレイラの気配。
ここに現れた『第一の眷属』。
わかった。
「……別にあり得ないことじゃないだろう」
と。
『第一の眷属』は静かに口を開いた。
「かなめくんは肉体を完全に消失してからも、その事実をなかったことにしたわけだし……同系統の能力を持つ僕も同じことはできる。――というか、僕は『自分以外』を対象に、それが発動できるってだけだよ」
『第一の眷属』は淡々とそう言ったが、その回答に『
「だから――それがあり得ねえっつってんだろうが⁉ それはその辺の木々を修復したり、無機物を直すとはワケが違うぞ⁉ その次元の
「……何に怒っていると思えば」
唐突に激情する『
「別に『
「――てめえ」
「落ち着きなよ、『
「――様を付けろやコラ?」
「別に僕は崇拝してないからね――付けないさ」
冷淡と話す『第一の眷属』。
……そんな二人に対して、俺は黙ってられなかったので、横槍を入れた。
「おい」
『
『第一の眷属』は構っている暇などないと言うように、流し目でこちらを見る。
……俺は両者の視線を無視して、『第一の眷属』に訊いた。
「お前……レイラに何をした?」
「ん? ああ、レイラかい? 別に何もしてないよ?」
「――嘘を吐くなよ。お前が何もしていなかったら、レイラは今ここにいるはずだ……なのに今ここにレイラがいないってことは、お前がレイラに何かしたってことだろう?」
唐突に小さくなったレイラの殺気――気配。
『第一の眷属』がレイラに『何か』したなら、レイラがここにいない理由に納得がいく。
「もう一度訊くぞ? お前、レイラに何をした?」
「……ひどいなあ。何もしてないって言っているのに――ああでも、正確に言えば、何もしていないは嘘だね。……別に僕はレイラに指一本触れていないけれど……一言二言、彼女に言ったから」
「――おい」
『第一の眷属』は回答を濁すような言い方をしたので、俺は今の自分の感情が伝わるように、強めの口調で言った。
「質問に答えろよ。――何をしたんだって、俺は訊いたんだ」
「…………」
俺の質問に、『第一の眷属』は何も言わなかった。
ただ、意外そうな顔をした。
そして何がおかしいのか淡く笑って、それから『第一の眷属』はこんなことを言った。
「……君って理性的な性格をしていると思っていたけど、怒ることもあるんだね」
「答えろ」
「わかった、わかったから……その殺気は引っ込めてくれ」
無視して詰めると、『第一の眷属』はようやく俺の質問に答えた。
「本当に何もしてないさ。……ただ、クリーチャーズを皆殺しにして興奮していたみたいだから、家に戻って寝ていなさいって言っただけだよ――それ以外のことは何も言っていないし、本当に何もしていない。……気になるなら今から家に帰って、自分の目で確認したらいいよ。たぶん、君の家で寝ているから」
そう言うと『第一の眷属』は俺との会話が終わったと言うように、俺から視線を外した。
そしてゆーきの背中を押して、
「悪いけど、彼が怪我しないように守ってくれないかい? ……僕じゃあ守りながら、戦える自信がないからね」
「……え?」
唐突にそう言った『第一の眷属』に、佐々木は驚いた顔をした。戸惑った顔とも言える。
俺は『第一の眷属』に訊いた。
「どういうことだよ……お前、俺達の敵じゃないのか?」
「敵――敵ね……味方じゃないのは確かだけど、敵ときっぱり宣言するのは、少し早いかな?」
「あ?」
「確かに、僕は味方じゃない――けど」
『第一の眷属』は振り返らず言った。
「――今この状況は、僕好みじゃないのさ」
「…………」
「だから頼む。信じてくれなんて胡散臭い言葉を言うつもりはないけど、せめて彼がもう怪我しないよう――守って欲しい」
その言葉に俺もゆーきも、殲鬼師二人も、何も言わなかった。
急にそんなこと言われても――信頼できない。
何か裏があるとしか思えない。
……と思って俺は何もしなかったが、意外にもこの状況で動いたのは、海鳥だった。
「――わかりました。彼は私達が守ります」
そう言って海鳥は丁寧な言葉遣いと共に、ゆーきの手を引っ張った。
『第一の眷属』が丁寧に対応したから海鳥も丁寧に対応し返したわけじゃないだろう。ゆーきの安全を確保するために、そう言っただけだと思う。
……ゆーきは死亡した前後の記憶が飛んでいるのか、何が起こっているのかわからない――というような顔をしているが、そんなゆーきの表情を気にせず、海鳥はゆーきの身体を引き寄せると、自分達を囲い込む大きさの結界を張った。
それを見た『
「……おい。なんの真似だ?」
「それは僕の台詞だ」
怒りの感情を込めて言葉を発した『
「前にも言っただろう――契約違反だ。僕が目的を達成するまで、君は彼とレイラには手出ししない。そういう契約だっただろう? 約束は守れ」
「はっ――蟻ん子一匹殺せねえ鶏風情が、俺に命令してんじゃねえよ?」
「その鶏風情に敗北した癖に、偉そうにするなよ……僕が勝ったら契約を遵守する。そういう話でもあっただろう……一度目は見逃したが、二度目はない。僕が生きている間はせめて守ろうとしろ。できないなら――実力行使で従わせる」
「……あれが俺の本気だとでも?」
「本気じゃなくても――負けたのは事実だろ?」
その一言が引き金になった。
高速で動いた『
空気が叩かれる物凄い音がすると同時に、『第一の眷属』は『
超至近距離で両者は睨み合って、こう言った。
「殺す」
「できないことを言うなよ」
そう言って両者は殺し合いを始めた。
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