第九話 神崎勇騎
ゆーきの登場に、『
試合中に、唐突に三歳児がコート内に入って来たのを見たような表情。
『
それから『
「なんだ……お前……? 増援の魔術師……ってわけじゃねえよなあ……? 魔力の反応がまったくねえし……『霊装』を一つも持ってねえ……ってことはただの一般人か? ――おいおい勘弁してくれよ」
と、『
面倒臭そうに。
それから言った。
「消えな、ガキ……俺は男って生き物が大っ嫌いなんだけどよぉ……魔術と吸血鬼の世界に関係ない一般人は、男だろうが極力殺さないって決めてんだ……だから今すぐ消えろ――俺の気が変わらないうちに」
「どけよ」
「……あ?」
「今すぐ俺の親友の上からどけって言ったんだよ! 吸血鬼!」
ゆーきの怒号に『
いや、俺もたぶん同じような目をしていたかもしれない。
帰ったはずなのになんでここにいる?
なんでこのタイミングで登場する?
そして登場していきなり、何をやっているんだ? 死にたいのか?
ゆーきの発言に困惑する『
しかし、次の瞬間に溜息を一つ吐くと、嫌な笑みを浮かべて。
それからゆーきの方に顔を向けて。
「『
「息止めろ!」
『
次の瞬間、『
その煙はすぐさまゆーきの全身を覆って、姿が見えなくなった。
「ゆーき!」
「はっ」
ゆーきが何もできず煙に吞まれたのを見て、『
しかし次の瞬間に、ゆーきがいた場所から火球が飛んで来た。
「……っ⁉」
黒い煙を引き裂くように飛来してきた火球を、『
煙が爆発によって拡散されたので見ると、ゆーきの目の前には佐々木が立っていた。
ゆーきの全身を結界で覆って。
右手には燃える十字架を握って。
「…………」
佐々木は空中にいる『
また右腕を蛇にでも変えて攻撃しようとしたのだろうが――しかし『
「何っ⁉」
肘から先を切断されて、『
「あ」
あまりにもあっさりと、軽い感じで頭が飛んで行って、首から下の部分は重力に従って地面に落ちる。
『
斬首した本人である海鳥も、俺のところに近寄って来た。
ゆーきは近付いてくると、俺に向かってこう言った。
「かなめ、大丈夫か⁉」
「ああ」
傷を負っても無効化できるから、俺は何も問題ない。
「つーかお前、なんでこんなところにいるんだよ? 帰ったんじゃないのか?」
「えっ。いや帰ったけど」
訊くと、ゆーきはあっさり答えた。
「途中であのお姉さんが森の中に入って行くのが見えたからさ……気になって付けて来たんだよ……金髪金眼が吸血鬼の特徴って聞いていたし……なんか滅茶苦茶嫌な予感がしたから」
「…………」
そんな理由でここまで来たのか。
嫌な予感がして放っとけなくなったっていうのは、ゆーきらしい理由っちゃあ理由だけど……命の保証がないのに、よくやる。
放っとけよ、それくらい。
「海鳥、佐々木……どっちでもいいからゆーきを安全地帯まで連れて行け。タイミングよく現れてくれたのはいいけど……これじゃあ戦力減だ」
「ちょっと。その言い方はないんじゃない?」
言うと、佐々木が俺に噛み付いて来た。
「ゆーきくん、あんたの親友でしょ?」
「守りながら戦う余裕があるか?」
「…………」
「そういうことだ――とりあえず、ゆーきを連れて逃げろよ。こっちはレイラがくるまで時間稼ぎできたらいいんだから」
――そう言いながら俺はレイラの気配を探って。
「……とっとと」
「……逃げれると思ってんのか?」
と、首が繋がった『
ゆらあー……っと。映画やゲーム世界のゾンビのように、ゆっくりと立ち上がる。
『
「あー……いってぇ。……油断しているつもりはなかったが、まさか首を切り落とされるとはなぁ……思ったよりもやるじゃねえか」
押さえている首は傷跡を残さず再生していた。
再生する瞬間を見ていたが、時間が巻き戻るみたいに、ぶちまけた血液も飛んで行った首も、自動的に戻って再生していた。
二〇秒弱。
即死級の攻撃を喰らってもそれくらいで傷が治るのはさすがだけど、俺やレイラほど速いわけじゃないなら……付け入る隙はある。
けど、一つ問題が発生した。
「ま、さすがにこの程度じゃ死なねえけどな? ――けど追撃してこねえとはどういうことだ? ……あくまで『
と、『
「……『
「え?」
「え?」
「…………」
そう。
反応を見るに、海鳥と佐々木は気付いていなかった様だが、『
しかし何故か、全滅させてもこっちに向かわず、その場でじっとしているのだ。
反応はあるが……寒気がするほどの重圧もなくなっている。
……何をやっているんだ? レイラ? 何かあったのか?
「……お前の指示かよ? 神崎かなめ」
『
けど――じゃあなんだ?
なんでレイラは動かない?
「……よくわかんねえが――まあ、こねえなら好都合だ」
考えていると、『
瞬間『
「『
そしてその声が聞こえたと思ったら、いつの間にか海鳥の前まで移動していた『
「かはっ⁉」
「さつき!」
海鳥の身体がノーバウンドで一〇メートル以上飛び、ぶつかった木の幹を一発でへし折る。そのまま海鳥は受け身を取れずに、地面に倒れた。
「このっ‼‼‼」
「『
佐々木が燃える十字架で『
「『
そう言うと右脚が燃え上がる。佐々木の十字架のように轟々と燃える右脚で、『
「くっ‼」
しかし、黙ってやられる佐々木ではない。
十字架が手から離れて、宙に浮いた不安定な状態でも、佐々木は掌に炎の球を生み出した。
そして燃え上がる『
直前で背後にゆーきがいることを思い出して、その攻撃を中断した。
「……っ⁉ スト――」
「
火球を消した佐々木に、『
まともに一撃を喰らった佐々木はゆーき共々、爆炎に包まれて姿が見えなくなる。
炎の熱と光がこっちまで伝わってきて、俺はとっさに顔を手で覆った。
通常だったら、今の一撃で人の身体は原型を留めないだろうし、佐々木はともかく、魔術を使えないゆーきは確実に死んでいるだろう。……が、
「……へえ」
と、『
「守り切ったか」
見ると、佐々木はまたもやゆーきの周囲に結界を展開して、ゆーきを『
自分は直撃を受けて煤だらけになっているが――手足は一本も欠けていないし、激しい火傷を負っている様子もない。
「不便そうだな、魔術師」
『
「その男を守らなきゃ――てめえは無傷だっただろうに」
「……そりゃ守るわよ。こいつは一般人なんだから」
「そうかい――『
そう言うと『
何発も。
何発でも。
「ぐっ……ぐふぅ……!」
「しかし面倒臭ぇなあ、『変身術』。防御力が高過ぎてお前達
「……そりゃあ、『人外殺し』が開発した魔術だからね」
「――その名前を口にすんじゃねえよ」
佐々木が『人外殺し』の名を口にすると、『
こちらから表情は見えないが、『
「佐々木‼ このっ‼」
結界を壊されたゆーきはそう叫んで、『
俺はそこで殴り飛ばされた海鳥を見る。
倒れ込んでいる海鳥は俺の視線に気付いた。
「あん?」
またボールを投げ付けられた『
大柄なゆーきが思いっ切り投げたボールはかなりの速度と威力を保持していたはずだが、一般人レベルの範疇を超えないゆーきの一撃は、無力に等しかった。
「おいおいなんだこら? ……てめえから殺して欲しいのかぁ? ――だったら最初からそう言えよ」
言って『
ゆーきは思わず一歩下がった。
「くっ」
「怖いか? けど――後悔してももう遅い……恨むならさっき逃げなかった、てめえを恨むんだな」
『
――さすがに黙って見ているわけにはいかなくなったので、俺は背を向ける『
が。
「……っ⁉」
「……気付かねえと思ったか?」
心臓を貫かれた。
振り向きざまに『
腕は前腕部までねじ込まれた。
……その状態のまま、『
「……がっ⁉」
「
言いながら『
俺は吐血しながらも――『
出血した血液は、体外に出る度に蒸発してなくなる。
「……ところで気分はどうだ? 神崎かなめ――期待していた『
この状況で勝利を確信しているのか、愉悦の表情でそんなことを言う『
そんな『
「……いや……そんなに悪い……気分じゃない」
「……あ?」
「それにゆーきは――まあ、俺もお荷物だって思っていたけど……その評価……改めた方がいいぞ?」
「――――」
俺の発言に『
恐らく、ここから形勢逆転される可能性を考えたのだろう。
それから『
「馬鹿が。魔力を持たねえ一般人に何ができる?」
「その発言は侮り過ぎだ」
「あ?」
ただの一般人でも、できることは色々あった。
例えば――詰み状態だった俺を、ボールと声だけで救ったり。
例えば――俺がゼロ距離で心臓を貫かれる、この状況を作ったり。
「うおっ⁉」
と。
ゆーきは唐突に叫んだ。
ゆーきの奇声に、『
するとゆーきの身体は一本釣りされた
『
海鳥が扱う『霊装』。魔術。
今まで俺に付けていた糸をゆーきに付け替えて、海鳥が自分のところに引き寄せたのだ。
ゆーきの身体が海鳥のところまで飛んで行くと、海鳥は『
そのまま結界内に張り巡らされた糸はひとりでに文字に変形する。そして光量を増す。
俺は『
何をするかわかったらしい『
「これがてめえらの策か? 策って言うには陳腐だな――『
佐々木に足を掴まれるも、そう言って『
「これであらゆる武器は俺に効かねえ――魔術による爆発もだ。……さて、ここからどうする? どうやって俺を倒す?」
「いや別に――この程度で倒せるだなんて、思っていないけど?」
「あ?」
「よくわかんないけど」
糸が更に増殖してひとりでに文字を象る中、俺は金色の瞳を見て、言った。
「お前、クリーチャーズを生み出す以外に、クリーチャーズの能力を使えるんだろ? けど――同時に複数個は扱えない。ライオンの『武器特防』を発動している時は、ほかのクリーチャーズの能力は発動できないし、大蛇の毒を発動している時はライオンの『武器特防』は発動できない。そうだろ?」
「……だからどうした?」
「誘導したって言ってるんだよ。お前がこの場面でライオンの能力を発動するのはわかっていたし――ありがとうよ」
「あ?」
「俺をナメていてくれて」
そう言って俺は『
「がっ⁉」
「……火力が低くても、これくらいはできるぞ?」
反撃されると思っていなかったのか、『
それから吐血をする。
「吸血鬼はいくら不死身だって言っても……痛みに強いわけじゃないからなあ?」
「て……めぇ……⁉」
「ああそうそう――あと、一つ質問があるんだけど」
文字を象った糸が結界内を埋め尽くして。
目が痛くなるほど光量が増えて。
目の前にある、『
俺は構わず訊いた。
「……心臓を貫かれる激痛に耐えながらも、クリーチャーズの能力って、発動できるのか?」
直後。
結界の中で大爆発が何度も起った。
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