第八話 『魔獣女帝』の能力
佐々木は高火力の十字架を武器とする殲鬼師だ。
十字架。
三メートルを超える銀塊。
使用時に炎に包まれる十字架は、海鳥が使っているワイヤーと同じく、神話上の道具をモデルにしているのだろう。
『
佐々木の十字架は一撃で吸血鬼の肉体を灰に変える。
俺も一度だけ喰らったことがあるから、その威力は折り紙付きで。
必殺の一撃を持つ十字架を、佐々木は『
「『
「……っ‼」
――防がれた。
頭上から振り下ろされた灼熱の十字架を、『
獰猛な笑みを『
嘲笑を佐々木へ向ける。
視線が佐々木に向いた瞬間に、俺は『
が。
「
その声と共に顎を蹴り上げられた。
左脚が俺の顎を貫く。
吸血鬼の脚力で蹴り抜かれた俺の下顎は、つま先が当たった瞬間に爆散した。
「……っ⁉」
すぐさま意識が戻る。
すると海鳥の糸で俺の身体は引っ張られていて――俺の視界には大蛇の大顎が目一杯広がっていた。
「『
海鳥のところまで強引に引き戻されて、『
あと一歩のところで歯牙が停止する。
「――はあ‼」
そしてその瞬間に、佐々木が紅蓮の十字架を大蛇の頭部に叩き付けた。摂氏三〇〇〇度以上の炎の一撃を受けた大蛇は、直撃の瞬間に頭部が爆発して絶命する。
頭部を失った大蛇の身体はすぐさま灰へと変化した。
「……いつ付けたんだ? さっき取っていただろ?」
「さっき『
俺の質問に結界を展開していた海鳥は答える。
大蛇を殺した佐々木は俺達の前に立ち、ふわふわと宙に浮きながら十字架を構えた。
「はっ! やるじゃねえかよ!」
自分の大蛇が殺されたのに、『
灰へと変わる大蛇の身体を切り離して左腕を元の形に戻すと――『
「『
そしてそう言い放つと同時に、口から炎を吐いた。
視界全てを覆うほどの、広域の炎。
その炎に、佐々木は掌を目の前に広げて、俺と海鳥も覆う大きさの、球状の結界を展開した。そのおかげで誰も焼かれずに済んだが、炎で塞がっていた視界が開けると――
――『
「――っ⁉」
「そォらよ‼」
一瞬で佐々木の目の前に移動した『
「リアちゃん!」
隣に立っていた海鳥が慌てた声を上げる。
あの程度で死んでいないだろうが、唐突な一撃で同僚がやられたことに、海鳥は動揺したのだろう。
「――『
海鳥は右手を振って、複数本のワイヤーを『
「『
そう言うとワイヤーは『
またしても無傷。
『
「なっ」
海鳥が驚いた声を出したかと思うと、彼女の身体は綱引きの要領で『
拳が直撃した海鳥は先程の佐々木同様にものすごいスピードで飛んで行き、森の木々をへし折る。
俺は集中して、二人の気配を探った。
……反応を確認すると、二人とも生きていることがわかった。
「……おい、よそ見とは余裕だな?」
すぐ近くで『
ほんの数メートル先から聞こえたような声量の大きさに視線を戻すと――その瞬間に俺の身体は地面に落ちた。
「は?」
視界が傾いて少しの浮遊感に襲われて、俺は地面に仰向けに倒れる。
強引に地面に叩き付けられたわけではないが、受け身も取れず地面に倒れ込んだため、何故だと思って上体を少し起こすと、人を見下すように笑う『
それを見てどうなったか理解する。
――ああ、なるほど。
俺――胴体を真っ二つにされたのか。
……平然としている場合じゃないけど。
「ぐっ」
「おっと――動くんじゃねえ」
どうにかして腕の力だけで身体を動かそうとして、地面に手を付いて起き上がろうとした瞬間に、『
その時視界に立っていた下半身が消えて、腰から下の感覚が戻った。……『
……参ったな。どうなっているんだ、これ。
俺程度の怪力じゃあ、『
「……つーかお前、なんか余裕そうだな」
『
その言葉を聞いて、俺はレイラがあとどれくらいでくるか考えた。
クリーチャーズの反応は……まだあるな。雷撃の音や地鳴りも聞こえる。
都合よく、今到着することはないな。
「――少しは焦らねえのかよ? この状況で」
「……これでも……結構焦っているんだけどな……」
俺はこの状況で話し掛けて来た『
今俺ができることは、レイラがくるまで少しでも時間を稼ぐことだ。
だから俺は、『
「つーかお前。今日は復讐が目的じゃないって言ったよな?」
「……あ?」
「目的だよ。目的」
豊満な双丘を見上げながら、俺は言う。
「復讐が目的じゃないんだったら何しに来た? レイラと『人外殺し』への復讐……それがお前の目的、最終目標なんだろ? ……だったらそのためにお前は行動しているはずだ。そこに辿り着くために歩んでいるはずだ……なのに、今日はそのためにここに来たわけじゃないって……お前は言ったよな?」
時間稼ぎの意味合いもあったが、実際気になったことだったので、俺は訊いた。
『惜しいな……惜しい。確かに『
『
自分の目的は復讐だと。
しかし、そのためにここに来たわけじゃないと。
レイラがこちらに向かっていると知った時、『
しかしだとしたら――なんのためにここに来た?
「お前はなんのために、ここに来た?」
「……ああ、それか」
と、『
声と同じくらい冷たい目を向けて。
「別に俺の目的はブレてねえ。俺は『
「……キー?」
それは一体――なんのことだ?
キー――鍵?
重要な道具?
鍵と言う単語を使うからには、それは『
レイラが何か――『
「それはなんだ?」
わからなかったので、俺は『
「キーってなんのことだ?」
「はっ」
俺の質問に対して、『
そんなもの――考えたらすぐわかると言うように。
そんなこともわからないのか――と嗤うように。
人を嘲笑する目を向けて、牙を見せつけるように口角を上げて、俺の上に座ったまま、『
……少しだけ――俺に顔を近付けて。
「お前だよ――神崎かなめ」
そう言った。
『
……は?
俺?
俺が……キー?
俺が鍵って――どういうことだ?
「『
言われても意味がわからず俺は首を傾げたが、しかし『
まずい。
わからないことが多いが――『
一呼吸したら意識を持って行かれる。
そう思って息を止めて顔を逸らそうと思ったのが、『
頬から首に掛けての部分を包み込むように両手を回して、無理矢理俺の口を開けて、『
そして。
「……⁉」
そこで何かが『
『
『
「……あ? なんだこりゃ?」
しかし飛んで来たそれを受け止めて、彼女は首を傾げていた。
いや……正確に言ったら困惑していると言った方が正しいかもしれない。
「ボール……?」
それは革製の茶色いボールだった。
バスケットボール。
男子の試合で使われている、七号球と言われている大きさのボール。
見覚えのあるボールだった。
見覚えのあるというか――さっきまで体育館でバスケをしていた時に、使用していたボールの一つだった。
「何やってんだ……てめえ」
ボールが飛んで来た方向と同じ方向から声がして、俺と『
声がした方向の先には、一人の男が立っていて――俺と『
「俺の親友に何やってんだ! てめえ!」
その男は金髪に青い瞳を持つ、整った外見していた。
一九〇センチを超える高身長に、同い年とは思えないほど引き締まって完成された肉体。
バスケットボールの絵柄がプリントされた上着に、バスケットパンツの格好。
背中にはバスケットボールが入るほど大きなかばんを背負い、いつものようなへらへらとした笑みではなく、憤怒の表情を浮かべている男は――どこの誰だろう。
ゆーきだった。
ブチ切れた表情をして。
神崎勇騎が。
そこには立っていた。
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