第七話 『魔獣女帝』
『
クリーチャーズの生みの親。
数日前に『第一の眷属』と共に俺達の前に現れ、この街で起こった『連続女性変死事件』の犯人と宣言した、レイラの次に危険視される吸血鬼。
世界に八人しか残っていない、『
「…………」
『
人を侮蔑した目。
人を軽蔑した目。
「海鳥」
対して。
俺が取った行動は単純だった。
「走るぞ!」
『
警戒して構えていた海鳥の手を引っ張る。
海鳥は慌てた声を出した。
「え、かめくん逃げるの⁉」
「別に逃げてない」
手を離すと、海鳥はポケットからスマホを取り出す。
それを横目で見ながら、俺は言った。
「ただ、場所を移すだけだ」
海鳥は画面を触るとスマホをすぐ仕舞って、前を向く。
……と。
「おいおい――いきなり逃げんのかよっ⁉」
「……っ⁉」
『
どこから出て来たのか、先程倒した大蛇と、同じ姿のクリーチャーズの頭に乗って。
「……どこから出した」
さっきまで、『
感知範囲外から近付いて来たとかじゃない。異空間から現れたみたいに、唐突に大蛇の魔力の反応が現れやがった。
「……『母なる権能』」
と、海鳥はぼそりと呟いた。
「『
「……エキドナの『仔』」
『仔』とはきっと、クリーチャーズのことを言っているのだろう。それはわかった。
けど。
「だとしても……こんなすぐ生み出せるのかよ⁉」
「わからないよ⁉ 私も見たことないんだから!」
海鳥は声を荒げてそう言った。
その声と表情から、余裕がなく、慌てているのがわかった。
海鳥は一瞬だけ振り返って、ワイヤーを周囲一帯の木々に巻き付ける。
「あぁ⁉ そんな糸で止められると思ってんのか⁉」
しかし『
『
「――『
起爆。
海鳥の声と共に、設置されたワイヤーがすべて光り、爆発を起こす。
爆発の威力は『
が。
「ははははは!
その程度で『
怯まない。
爆炎の中から出て来た『
全身の損傷は時間が巻き戻るように瞬時に治る。身に着けている衣服も身体の傷と一緒に再生した。
と――そこで魔力の反応が八つに増えた。
「っ⁉」
振り返ると、大蛇の数が七頭に増えている。
釣られて海鳥もチラッと背後を見ると、慌てて右腕を構えた。
「……っ‼」
「海鳥。ワイヤートラップはいいから走れ。致命傷どころか足止めにもならないし、無駄に魔力を消費するな。……少し疲れてるだろ? お前」
「……確かにさっき魔力ちょっと消費しちゃったから、少し疲れてるけど……けどこのまま逃げてどうするのさ⁉ 状況何も好転しないよ⁉」
「だから――場所移すだけだっつっただろ」
俺は言った。
「この先に広場があるから――そこで戦う」
「……場所移す意味あるの?」
「あるから移動してる」
言って走って――俺と海鳥は森を抜けて、別の広場に出た。
以前、レイラ達と一緒に、大量発生したクリーチャーズを殲滅した広場。
この森で一番広い広場。
「……急に逃げ出すからどこに向かうかと思えば……なんだ? この広場に何かあるのかよ?」
広場の中心地点に辿り着いて振り返った俺と海鳥に、『
そして人を見下した目を俺達に向けて――笑う。
「……それともあれか? ――俺から逃げられねえって察して、諦めたのか?」
「好きに判断しろよ――お前がどう判断しようが、俺はどうでもいい」
「ああ、そうかい」
『
ある大蛇は舌をチロチロと出して、ある大蛇は牙を見せてこちらを威嚇して、ある大蛇は頭を上下左右に動かし、周囲を見渡すようにした。
「まあ――俺もどうでもいんだけどな? お前に策があろうがなかろうが……俺がすることは一緒だ」
「目的はレイラだろ?」
「あ?」
「レイラへの復讐」
俺は言った。
「『革命戦争』――『人外殺し』と共に『
『
『
『
……そう思ったため、俺はそう言ったのだが、
「ああ――俺の目的か」
と、俺の言葉に『
「惜しいな……惜しい。確かに『
「……あ?」
違う?
今日はそのために……ここに来たわけじゃない?
じゃあ、なんのためにここに来た?
と思っていると――上空から魔力の反応があった。
「――あ?」
『
爆発。
吸血鬼を一撃で葬る火力。
身を持って経験したことがある一撃。
『
七頭いた内の三頭は、頭部が焼けて絶命する。
「――ごめん! 間に合った⁉」
見ていると、空から『
佐々木
魔法少女の格好をした魔術師。
三メートル大の十字架を武器とする
……さっき海鳥がスマホをいじっていたから、応援要請をしていたのはわかっていたけど……予想よりも早い登場だったな。
連絡して五分も経っていない。
ブオォン――と、爆発地点から十字架が自動的に佐々木の手の内に戻っていく。
しかし。
「へえ……大した火力じゃねえか」
声がした。
炎の中から。
必殺の一撃を受けたはずの――一撃で肉体を灰に変えられたはずの吸血鬼の声がした。
「十字架――いや、こりゃ元々は『
その声は熱を一切感じてなさそうな、涼しげな声だった。
数千度はある空間の中にいるはずなのに、『
「珍妙な格好をしているが……じゃあその手袋は『
「……っ‼」
無傷。
佐々木の十字架をまともに喰らったはずなのに、炎の中から出て来た『
「リアちゃん」
「……わかってるわよ」
『
……姿勢が前のめりになっているから、今にも殴り掛かりそうな雰囲気はあるけど。
俺は武器を構える二人に言った。
「海鳥、佐々木……倒そうとするなよ。時間を稼ぐことだけ考えろ」
「……あ?」
「は?」
「……どういうこと、かめくん?」
俺の発言の意図がわからなかったようで、『
『
「なんだぁ……? 俺はてっきりそのガキの奇襲が策だと思ったんだけどよぉ……まだ何かあんのか?」
「すぐわかる」
俺がそう言った直後のことだった。
『
周囲の気温が下がったような悪寒がした。
その悪寒は二人の殲鬼師と『
悪寒の発信源は俺の家がある方向から。
俺の背後に広がっている森の方向から――無数の鳥が一斉に飛び立った。
「……そういうことかよ」
俺の狙いがわかったようで、『
そのあと金色の瞳で、俺を睨んでくる。
「なんのために移動したかと思えば……ここに『
「そう……ここはレイラの魔力感知範囲内だからな……あと一、二分くらいでくるんじゃないか?」
家からここまでは少し距離が離れているが、レイラの足だったら二分あれば、ここに到着する。能力を使えばもっと早いだろう。
『
「チッ――『
そう叫ぶと『
その数、元いた四体も合わせて、合計一〇体。
一瞬にして一五メートル大の大蛇が、複数体誕生する。
「行け」
そしてそう言うと同時に、大蛇はその場で穴を掘って地中に潜った。
魔力の反応から、大蛇達がレイラのいる方角に向かったのがわかる。
「……一〇体程度じゃあ、数分しか足止めできないぞ? あいつが到着するのが二分から五分くらいになるだけだ」
「五分あれば十分だな……さて――まずはガキ二人を殺すか」
『
俺は役割分担をわかりやすくするため、前方へ出ると、同じように佐々木も一歩前へ出た。
視線を『
「おい、時間を稼ぐことだけ考えろって言っただろ――下がれよ」
「うるさい。なんであたしがあんたの指示に従わないといけないのよ」
そう言って佐々木は後ろに下がる気配がない。
……俺の考えが理解できていないわけじゃないだろうが、ここで下がらないということは、佐々木は個人的に、『
正直、私情で戦われるのは面倒だが……まあ、別にいいか。
因縁があるなら、好きにすればいい。
それに対して俺がどうこう言う必要はないし、俺がすることは特に変わらない。
隣で十字架を構え直す佐々木に、俺は言った。
「先に言っとくけど、足引っ張るなよ?」
「あんたに言われたくない」
そう言うと同時に佐々木は自分の身体をふわっと浮遊させて、『
続いて、俺も突っ込む。
対して、『
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