第六話 登場

「更地だな」

「だねー」

「何もないな」

「だねー」

「土も焦土になっているし」

「……だねー」

「……で、海鳥――俺に何か言うことは?」

「あ、かめくん見て見てー、とんびだよー?」

「……話の逸らし方が雑だなおい」

 確認したが、鳶はどこにも飛んでいなかった。

 結界で被害は抑えられていたとはいえ……凄まじい光と音がしたから、周囲の野生動物はすべて逃げ出している。

 再度周囲の状況を確認して、俺は溜め息を一ついた。

 すると海鳥はばつの悪そうな顔をして言った。

「いやー……悪いとは思っているよ? けど仕方ないじゃん。『毒水蛇ヒュドラ』を倒すにはあれくらい火力が必要なの」

「まあ……別に怒っていないからいいけど」

 それは理解しているから、別にいい。

 修復される前の状態に比べたら……だいぶましだし。

 俺は改めて周囲の状況を見た。

「けど――本当に更地だな」

「ん。まあねー」

 海鳥も同じく周囲を見る。

 外は結界に守られていたからか被害はないが……結界の内側は更地同然だった。

 青々に茂っていた木々も芝生も、緑が一切消えている。

 土も焼けて黒くなっていた。

「えぇーっとですねー……森の一部をこんな感じにしといて、今更こういうことを確認するのはあれですけど――『第二の人外シルバー・ブラッド』は私に気付いてないよね?」

「本当に今更確認するのかって感じの事柄だけど……それに関しては安心しろって返すよ。ここは森の端の方だから、レイラの感知範囲からは外れているし」

「そっか……はあ、ほっとした」

「そうか」

 心配するのがそこなのか――と思ったが、俺は口に出さず黙っていることにした。

 殲鬼師である海鳥にとっては、退治された実績のあるクリーチャーズよりも、退治不可と言われているレイラの方が、百万倍も怖いんだろう。

 レイラ――『第二の人外シルバー・ブラッド』。『災禍の化身』。

 ……まあ、もし今の爆発の光と音、あと衝撃で気付いたとしても、あいつがここまで様子を見にくる可能性は低い。

 万が一来たとしても、俺がレイラを止めるし。

 ――そう考えていた時だった。

「……っ⁉」

 ゾクッ――と。

 刃物で刺されたような悪寒が、身体を走り抜けた。

 その悪寒を発した『それ』は、猛スピードで俺達の方に来ていた。

 方角は北から。距離はもう一〇〇メートルもない。

 レイラ……? いや、レイラじゃない。

「海鳥」

「へ?」

「くるぞ!」

 叫ぶとほぼ同時に、『それ』は俺達の前に現れた。

 上から。

 隕石のように、遥か上空から、『それ』は飛来して来た。

 地面に衝突した衝撃と共に――土を盛大に巻き上げて。

 俺と海鳥の目と鼻の先――一〇メートルと離れていない位置に着地する。

 土のカーテンが一瞬で晴れる。

 塞がった視界がすぐさま開けて、俺達の前に現れた『人物』の姿が明らかになった。

 金髪金眼。

 男物のスーツに――女性にしては長身な身長。

 外に跳ねた肩に掛かるほどの長さの髪に、抜群のスタイルを保持した美女。

 ……俺が持たない牙を見せつけるように笑って、その美女は言った。

「よお」

 クリーチャーズの生みの親である吸血鬼が、そこには立っていた。

 つまり――『魔獣女帝エキドナ』が俺達の前に現れた。

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