第2話
チョコとバニラが、そんな四合院に帰ったのは夕方の事だった。
「明日は友達の家に泊まってくるよ。夕方には帰ってくるから、ジャンボも休んでね!」なんて言葉に、ジャンボは不思議そうに頷いていた。
もちろん言葉通りに、二人は学友の家に泊まりに行っただけで、犯罪に巻き込まれたとか、そんなことは一切ない。
なのに帰宅した二人が見たのは、すっかり酔いつぶれたジャンボの姿だった。
驚きと戸惑いのあまり、二人は困惑を重ねる。
「ジャンボ……なにしてんの、これ」
「酒飲んでたんだろうね……」
見たままの感想しか出てこない。
何度かテーブルに伏したまま寝返りを打ったのか、髪はボサボサで、目も疲れをくっきりと刻んでいた。
まるで最初に会った頃の彼とそっくりだ。
「……これは予測してなかった」
「な……。ま、まぁ、せっかくなら起きるまでに飾り付けでもする?」
「起きるのか、これ」
二人は顔を見合わせて、なんとなくため息をついた。
「なぁ、ジャンボ。寝るなら寝台の方にしなよ」
バニラが酔いつぶれた彼の背中を揺らした。
しかし、かすかな声しか聞こえない。
「チョコ……バニラ……」
「はいはい、ここにいるから」
呆れながら寝言にチョコは答えた。
しかし、その声が聞こえると、すっかり酔ったジャンボはボロボロ泣き始めた。
なんだなんだと二人は慌てるも、ジャンボは起きる様子もない。
仕方なく二人で肩と足を掴んで、ジャンボを寝台まで運んで寝かせた。
「ジャンボ、重病すぎん?」
「んー、ひとんちに泊まりに行ったの初めてだしなぁ……。まぁ、ジャンボだし」
「まぁー……そうだね。ジャンボだし」
二人はため息とともに、色々思い浮かんだ言葉を、ジャンボだし、という一言で押し込んだ。
寝台でジャンボは酔っ払ったまま、べそをかいている。
もしも彼が実の親ならば……ここまで情けない姿をチョコとバニラも受け入れられなかっただろう。
たった一晩いなかっただけなのに。
そう、言いそうに何度もなりながら、二人はその言葉の代わりにため息をつく。
「ジャンボらしいよ……ほんと」
呆れながらも二人は笑った。
もうジャンボと出会った時から月日は流れて、彼らも15歳だ。
色々なことがありすぎて、この程度のことでは動じなくなっていた。
情けないとは思うけど、それでもジャンボはジャンボだから。
「花、潰れてない?」
「紙だから折り直せば大丈夫」
「ふーん……バニラってやっぱ器用だよな」
「お前だって無駄に達筆じゃん」
「無駄にってなんだよコノヤロ」
バニラはそんなチョコを見て、また笑う。
「お前もさ、人間になったよなー」
チョコはキョトンとして、なんとなく照れながらそっぽをむく。
「うるせぇ。俺は俺だよ」
「ふーん……川に落ちたお前助けたの誰だっけ?」
「な、なんだよ今更!今までそんなこと言わなかったくせに!」
「いいじゃん。俺、ちょっとだけジャンボの気持ちわかるなって思っただけ」
笑うバニラにチョコは悪態をつき、口をとがせたまた答える。
「俺だって、ゴミ箱漁ってたお前に、ちゃんとした飯持っていったもんね」
「お前がやってたの泥棒だろ」
「いいだろ別に。そのおかげでジャンボにも会えたんだし」
バニラはうぐっと言葉につまり、言い返せずにそっぽを向いた。
余計な会話をしてしまったせいで、二人はなんとなく気まずくなる。
15歳の二人が酒に酔いつぶれることはないけれど、なんだかんだ三人とも本質は同じだった。
だからこそこの生活が続いているのだろうか。なんて思いつつ、二人は無言のまま飾り付けを進めていった。
華やかな色の紙で作った簡単な切り絵の花や、紙の鎖など、友人に詳しいのがいて、それを教わりながら一緒に作っていたのだ。
あの時は、ジャンボに初めて会った頃は、この部屋は殺風景だった。
物がなんにもなくて、色もなくて、その中に目つきの悪い大人が一人、ぽつんと暮らしていた。
今ではジャンボに買ってもらった露店のおもちゃがいくつも棚にあって、ジャンボが貰ってきた仕事先の写真や映画の記念品なんかも、やっぱり飾ってあったりして。
この部屋は随分と賑やかになったものだ。
さらに、二人はカラフルに色を添えてゆく。
今日は特別な日だからだ。
大きめの看板のような紙に、チョコは何度も書き直して、筆で力強く記していた。
「誕生日おめでとう、ジャンボ」と。
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