128.光輝の決意
「それでは隼瀬様。ゴールドのアカウントについてなんですが――」
「削除でお願いします」
「……え?」
俺は伍代さんの言葉を遮る形で、ずっと考えていた答えを口にした。
「……削除、ですか?」
「はい。削除です」
「……で、ですが、ゴールドには膨大な時間と労力、それにお金もかけていらっしゃいますよね? 私たちとしては本来の持ち主である隼瀬様にお返しするのが当然の対応かと考えているのですが?」
まあ、そうなるよな。
伍代さんは本当に俺に返したいだけかもしれないが、上層部がどう思っているのかは分からない。
ゴールドは言ってしまえば、ワンアースにとって金の生る木と言えなくもない。
ここでゴールドのアカウントを本来の持ち主である俺に返したのだと宣言できれば、それはゴールドというコンテンツが復活したと言えるだろう。
再びゴールドの一挙手一投足に注目が集まり、その流れに乗ってワンアースは今回の失態で被った損失を回収しようと画策するかもしれない。
しかし、俺はもうゴールドに未練はなかった。
「セカンドキャラを作った時は、ゴールドに未練たらたらでした。俺の人生の全てを注ぎ込んだと言っても過言ではない、そんなアカウントでしたから」
「それならなおのこと、受け取っていただけませんでしょうか?」
「ですが……セカンドキャラのレヴォでワンアースをプレイしていく中で、俺はゴールドでは得られなかった多くのことを経験し、得ることができたんです」
「……それは、首藤様のことでしょうか?」
首藤さんという伍代さんの回答に間違いはないのだが、なんだかその言い方だと語弊がある気もするな。
「首藤さん……エリザとの出会いやリンとの出会いもその一つです。ゴールドは孤高でした。ソロで全てをクリアして、力でモンスターをねじ伏せてきました。だからこそ、俺はリアルでもワンアースでも、ずっと一人だったんです」
そう口にしたあと、俺の視線は自然と首藤さんへ向いていた。
「エリザやリンとの出会いは、俺のワンアースとの向き合い方を変えてくれました。リアルでも首藤さんと顔を合わせられたのも、レヴォがいてくれたおかげなんです」
「だから、ゴールドのアカウントはもういらないと?」
「はい。ランキングに関しては、殿堂入りとか、そんな形でゴールドを削除してもらえればいいかなって思っています」
俺はそう答えながら、自然と笑みを浮かべていた。
「……分かりました。ですが、天童寺百弥がアカウントを乗っ取った際に発生した隼瀬様の金銭的な被害、この分への補償はさせてください」
「え? でも、レヴォでも十分稼げるようになってきているし、別にそれも――」
「お金はあるに越したことはありません。それに、お金もお返しできないとなれば、ワンアース運営として大問題になってしまいますから」
伍代さんの表情は真剣そのもので、これは受け取らなければならないものなのだと理解した。
「それじゃあ、レヴォで紐づけている口座にお願いできますか?」
「かしこまりました。本日、会社に戻り次第で手続きを進めさせていただきます」
「あはは。そこまで急がなくても大丈夫ですよ」
「いいえ、すぐに進めさせていただきます!」
「……はあ、分かりました」
どうにも伍代さんの勢いに負けてしまい、俺はお金を受け取ることと即日での返金を了承した。
それからは軽い雑談を交えながらの食事となり、俺は伍代さんと別れた。
「それにしても、補償ねぇ。ここの肉がもう一回食べられるくらいはあるのかな?」
「おそらく、隼瀬さんが思っている以上の金額になると思いますよ」
「え? そうなんですか?」
「うふふ。楽しみにしていたらどうですか?」
何やら意味深な言い方を首藤さんにされてしまい、俺は口座を確認するのが怖くなってしまった。
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