127.話し合いと末路

 ――ログアウトした俺はその後、首藤さんと共に伍代さんと顔を合わせることになった。

 伍代さんが上司に報告した際に、正式な謝罪をしたいということでこちらに連絡があったのだ。

 とはいえ俺は百弥を叩き潰すことができたのでそこまで問題を大きくするつもりはない。

 謝罪があれば受け取る。ただそれだけでいいので、伍代さんには上司の同行は必要ないと念を押しておいた。


「――隼瀬様と首藤様でしょうか?」


 俺が首藤さんと待ち合わせ場所で待っていると名前を呼ぶ人の声が聞こえてきた。

 振り返るとそこにはスーツ姿でガタイの良い男性が立っている。


「伍代さん、でしょうか?」

「はい。すぐに謝罪をさせていただきたいのですが、一度場所を移しましょう」

「分かりました。首藤さんもいいですか?」

「大丈夫です」


 俺たちは人の多い通りから一軒の飲食店に入り、個室へと案内してもらう。

 移動の最中に聞いたところ、どうやら伍代さんが通い詰めている飲食店なんだとか。

 ワンアース運営の室長が通い詰める飲食店とは、どれだけ美味しいお店なんだろう。


「なんでも注文してください。ここの支払いは全て私が持ちますので」

「……い、いいんでしょうか?」

「こういう時はごちそうになっておくべきですよ、隼瀬さん」


 俺が気後れしていると、首藤さんが構わないのだと言ってくれたので、とりあえずお肉を頼むことにした。


「……えっと、これとこれを――」

「それでしたらこちらの方がランクも高いですよ。こちらでお願いします」

「え? あの、えっと――」

「分かりました。それとこちらもお薦めなので注文しておきますね」

「……はい」


 首藤さんが頼んだ奴、桁が一つ違っていたような。それに伍代さんのお薦めもだいぶお値段が……まあ、いいか。

 店員が一度部屋から下がり、中には俺たち三人だけになった。


「それではまず……隼瀬様、この度は私たちワンアース運営の不祥事に巻き込んでしまい、誠に申し訳ございませんでした」


 座敷の部屋だったのもそういうことなのか、伍代さんは姿勢を正すと謝罪を口にし、そのまま土下座をしてくれた。


「謝罪はもう受け取っています。だから顔を上げてください」

「……で、ですが」

「今日はお互いに仲を深めるための顔合わせですし、もっと建設的な話し合いをしましょうよ」

「……分かりました。ありがとうございます、隼瀬様」


 顔を上げた伍代さんへ笑みを向けると、彼は苦笑しながら態勢を楽にしてくれた。

 ずっとかしこまられていてはこちらも居心地が悪いし、美味しいごはんも美味しく食べられなくなりそうだしな。

 それからすぐに料理が運ばれてきたので最初は高級お肉に舌鼓を打ち、一生分の贅沢を堪能した気分になっていた。


「ごちそうさまでした、伍代さん」

「満足していただけたのなら嬉しいです。……ここからは軽くつまみながら、いろいろとご報告させていただこうと思います」

「よろしくお願いします」

「まずは簡単にご報告できることからになります。……まあ、天童寺財閥の末路についてですね」


 末路か……まあ、そうなるよな。

 伍代さんからの報告は、おおむねテレビやネットで報じられている通りの内容だった。

 天童寺財閥は百弥の騒動のあとから経営が破綻し、天童寺社長は責任を負う形で辞任した。

 今回のような騒動がなければ百弥が次の社長に就任していたのだろうが、当然ながら別の人間が社長の座に就いた。

 企業の名前も天童寺財閥から変わるようだが、そこに俺は興味がないので名前とかは忘れてしまったが。

 百弥については天童寺財閥を懇意にしていた企業が引き受けてくれたらしいが、あの性格で誰かの下につくことができるのかどうか……これから大変な人生を送ることになるだろうが、それこそ俺には関係のない話だな。

 天童寺財閥についての話が終わると、次はゴールドのアカウントをどうするかについて話し合われた。

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