126.百弥の失態

「終わりだな、百弥」

「……貴様……貴様、何をした!」

「俺は何もしていない。何かをしたのであれば――それはお前だ」

「……は?」


 実のところ、百弥の言葉は俺の配信だけではなく、ワンアース運営が管理しているチャンネルでもバッチリと放送されていた。

 本来であればユーザー間のトラブルに運営が関与するところなど見たことがなく、俺がゴールドの時代だった頃にもなかった。

 しかし今回は運営の室長である伍代さんにお願いして、百弥の失言を包み隠さず放送してもらったのだ。

 これが普通の企業を相手に行われていたなら大事件になるかもしれないが、今回はワンアースに損害を与えた天童寺財閥を相手にしている。

 損害賠償やら何やらも問題が出てくるところも、そもそも天童寺財閥がワンアースに大きな損害を与えていたわけで、さらに今回はその元凶となる相手が問題を起こしてしまっている。

 この状況で天童寺財閥がワンアースを訴えたところで勝ち目はないだろう。

 伍代さんもその点を理解してくれていたからこそ、今回の無茶なお願いを聞いてくれたのだ。


「俺とお前のやり取りは、ワンアースのチャンネルで誰でも視聴できるようになっている。動画だけじゃなく、音声もバッチリとな」

「……だ、だが、それだけでこんな大暴落……あ、あり得ないだろう!」

「お前はワンアースというゲームを、全世界で20億人以上のユーザーが熱狂しているゲームを甘く見過ぎたんだ」


 ワンアースをプレイするユーザーの中には天童寺財閥と仕事上の関係を持つ企業もいるだろう。もしかすると、天童寺財閥以上に力を持つ大企業だっていたに違いない。

 それらの企業の目に百弥の言動が入ったならば、それは契約を打ち切られるなどしても文句は言えないはずだ。


「お前が落ち目になっていた天童寺財閥に止めを刺したんだよ、百弥」

「……あぁ……あぁぁ……ああああぁぁああぁぁっ!!」


 頭をかき乱しながら、百弥が発狂してしまった。

 これでこいつも終わりだろう。ワンアースでも、リアルでも。

 まあ命を奪われるわけではないし、これからは百弥が経験したことのないような苦労をしながら生きていけばいいだけの話だ。


「……あとはよろしくお願いします」


 俺は伍代さんに連絡を取り、運営としてアナウンスをしてもらう。


『レヴォVSフェゴールのアカウント削除を懸けた決闘は、レヴォの勝利となります。これによりフェゴールのアカウントは削除となります。また、ゴールドのアカウントはこちらで管理させていただき、本来のユーザー様と協議のうえで今後の対応を発表させていただきます』

「……はは……終わりだ……俺はもう、終わ――」


 何やらぶつぶつと呟いていたフェゴールのアバターが消えた。強制ログアウトの後にアカウントは削除されることだろう。

 ゴールドのアカウントに関しては返してもらうのが当然なのだが……正直、もういらないと思い始めている。

 短期間とはいえ百弥が操作しており、俺だけのゴールドではなくなってしまった。

 思い入れは強いが、それでも百弥が触れたアカウントを再びメインキャラにするのは気が引けてしまう。


「……答えは決まったかな」


 伍代さんにゴールドをどうしてもらうか自分の中で決め、俺は自分の意思でログアウトしたのだった。

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