125.不正の代償
あまりにも呆気ない結末に、観客席からは一切声があがらなかった。
というか、声をあげるタイミングすらなかったのだ。
これがフィールドでの戦いならログアウト、デスペナルティが百弥に与えられたのだが、闘技場ではそうはならない。所定の位置で自動的にアバターが復活するだけだ。
しかし、その姿はあまりにも惨めだった。
「……は? 何が起きた?」
その場に両膝と両手をついた姿であり、その表情は何が起きたのか理解できないといった感じだ。
「全く。情けないな、天童寺百弥」
「……なん、だと?」
「お前は不正をしたうえで俺に負けた。それもメインキャラであるフェゴールでな」
「ふざけるな! 俺は負けていない、貴様の方が不正を働いたんだ!」
……俺が不正だと? ワンアースで?
「……貴様、ふざけるなよ? 俺がどれだけワンアースと向き合ってきたと思っているんだ? 真摯に取り組んできたと思っているんだ?」
「はっ! たかがゲームと向き合うだ? 真摯に取り組むだと? バカじゃないのか?」
「……お前は、なんのためにゴールドを乗っ取った? 少なくとも、ワンアースを楽しんでいたんじゃないのか?」
「はあ? お前、本気で言っているのか? 俺にとってゲームは、俺という人間を高めてくれる一つの道具に過ぎないんだよ! ゲームだけじゃない、俺以外の全てがそうなんだ! だからお前みたいな一般人が俺に逆らうなんてあり得ない――」
「ふざけるなよ!」
百弥が自分本位の意見を口にしている中、突如として観客席から声があがった。
「……なんだと?」
「お前みたいな奴がいるからワンアースが汚れていくんだ!」
「そうだ! 消えろ、一生ログインするんじゃねえ!」
「ってか、さっさとこいつのアカウントを消せよ運営!」
「……き、貴様らああああっ! 俺が誰なのか分かっているのか! 俺様は天童寺百弥だ――」
「うるせえ! 黙れよ不正野郎が!」
観客席から怒号や罵声が飛び、その全てが百弥へ向けられている。
最初こそ反論していた百弥だが、途中からは数の暴力に屈したのか、何も言えずにただ怒号や罵声をその身に浴びるだけだった。
「……これが、お前がバカにしたワンアースを楽しむユーザーたちの声だ」
「……は? だからなんだ? どうせこいつらの声は一般人の声だろ? 烏合の衆の声だろ? 俺は天童寺財閥の御曹司だ! 生まれた時点でお前たちとは違うんだよ!」
……さて、この発言を受けて、本当に天童寺財閥がお前を守るのかな? すでに落ち目になっているたかが一企業が。
「……分かった。それじゃあ見てもらおうか」
「何を見せてくれるんだ?」
「お前が言っていたやつだよ。落ち目の一企業が、本当に守ってくれるのかどうかを!」
すでに確認は取れている。
俺の声に合わせた形で闘技場にはとある企業の株価の推移を示すグラフが現れた。
「……なんだ、これは?」
「分からないのか?」
「こんなものを見せて何がしたいんだ?」
「左上を見てみろよ。そうすれば、バカなお前でも何を見せられているのか分かるんじゃないか?」
俺の言葉に百弥は射殺しそうな睨みを利かせたが、すぐに視線をグラフの左上――企業の名前が書かれた場所に向けた。
「……は? な、なんだよ、これは?」
「ようやく気づいたみたいだな、百弥。いや、これでもまだ御曹司野郎って呼んでやった方がいいか?」
「……嘘だ……そんな、あり得ない……天童寺財閥が……こんな……」
最後の最後まで拠り所になっていただろう天童寺財閥という企業の崩壊を見て、ついに百弥の心がぽっきりと折れた。
それもそうだろう。なぜなら天童寺財閥の株価はワンアースでの不正が発覚した時以上に大幅な大暴落を示していたのだから。
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