123.結末

 ――ゴールドが負けた。

 その事実を目の当たりにした観客たちは唖然としながらも、過去に見てきたゴールドとは全く異なる戦い方をしていた目の前の存在に疑問を抱いたに違いない。

 あれは本当にゴールドなのか? レヴォが配信していた内容が本当なのではないか? 自分たちは――騙されていたんじゃないのか? そう考えていることだろう。

 そして、観客席ではなく配信で動画を見ていたリスナーは俺と代行の会話が聞こえていたはず。

 俺の言葉だけなら信じてもらえないこともあっただろうが、苛立ちが頂点に達しただろう代行がいろいろと口を滑らせてくれたので、リスナーが現時点で離れていくことは少ないだろう。

 多くの者がこれで終わりだと思っているかもしれないが……俺にとっての本番はこれからなのだ。


「さあ、ゴールド。お前は本当にゴールドなのか? それとも――別の誰かなのか?」

「……俺は、ゴールドだ」

「この期に及んでまだしらを切るつもりか?」

「俺様はゴールドだ! それ以上でも以下でもねえ!」


 ……震えているな。乗っ取り野郎が代行を脅しでもしているんだろう。

 だが、俺には全く関係ない。代行に気を遣う必要もないのだ。


「一つ言わせてもらうが……俺が何の準備もなくゴールドを挑発したと思っているのか?」

「……なん、だと?」

「この場にお前が立ったことは面倒だったが、だからといって俺は奴を逃がすつもりは毛頭ないんだよ」

「……な、何をするつもりだ!」


 ニヤリと笑いながら代行を見下ろしていると、観客席からざわめきが聞こえてきた。


「なんだ? ログアウトできなくないか?」

「はあ? まさかだろう……って、マジだ。ログアウトできない!」

「おいおい、どうなってんだよ!」


 観客席の声はどんどんと他のユーザーへと広がっていき、何が起きているのかと声を荒らげ始める。

 直後、全ユーザーを対象に運営からアナウンスが発せられた。


『――突然のアナウンスにまずは謝罪をさせていただきます。誠に申し訳ございません。現在、闘技場にお越しの皆様のみ、ログアウトができない状況となっております』


 ……どうやら、伍代さんがやってくれたみたいだな。


『――今回の騒動、ゴールドが乗っ取られたのか否かの問題について、運営側でも改めて精査させていただきました。その結果、以前に問題を起こしました天童寺財閥の関与から、ゴールドのアカウントが天童寺百弥によって乗っ取られていたことが判明いたしました』


 アナウンスの内容は多くの観客たちを驚かせるとともに、ゴールドギルドの面々をも驚愕させるものになっていた。


『――そして、今回その被害を被ったのが、新しいアカウントを作成しゴールドを打ち破ったレヴォであることも確認できております』


 さらに俺がゴールド本来の持ち主であることも伝えられると、とある人物以外の全アカウントの視線がこちらに向いた。


『――また、今回のゴールドに関しては天童寺百弥ではなく、代行と呼ばれる別の者が操作していたことも確認しており、この場に天童寺百弥がログインした別のアカウントがいることも把握しております』

「なんだと!」

「さっさと出て来いよ天童寺百弥!」

「俺たちのゴールドを乗っ取るとか、最低野郎だな!」


 観客席から罵声が飛び交い、天童寺百弥が出てくるよう声をあげている。

 この声を聞いて出てくるのか否か……まあ、出てこないだろうな。


『――……自ら名乗り出るつもりはないようですので、こちらで処理を行いたいと思います』


 アナウンスがそう口にすると、観客席にいた一人のユーザーの姿が消え、突如として舞台の中央に移動してきた。


「……よう、フェゴール。いいや――天童寺百弥!」

「……隼瀬、光輝ぃぃぃぃ!」


 おいおい、どうしてお前が俺を睨むんだ? 睨みたいのは、俺の方なんだがなあ!

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