122.圧倒

「な、なんだと!?」


 俺はシャドウウォークを使い自らの影の中に入る。

 代行からすれば俺がいきなり消えたと見えたに違いない。

 問題があるとすれば今は日中で太陽が頭上からこちらを照らしている。影が伸びていないせいで自由に移動することができないことだが、代行相手になら……問題にはならないか。


「どこに隠れやがった!」

「ここだよ、ザコが」

「し、下だと――ぐはあっ!?」


 影から飛び出し連撃を浴びせる。

 兜に隠れて確認できないが、声の感じから驚きと恐怖が伝わってくる。

 こいつ、心が折れたな。

 さあ、どこかから見ているんだろう、御曹司野郎。……いや、乗っ取り野郎!


「ふ、ふざけやがってええええぇぇええぇぇっ!!」

「スキルの乱用、格好悪いなぁ」

「これで吹き飛ばしてやる! グラビティダウン!」


 超広範囲重力魔法。ゴールドの魔力でも闘技場全体を効果範囲に入れることができるだろう。

 だが、それもМPが全快だった場合だけだ。


「これも俺は効果範囲に入っていないぞ? どうする、ゴールド様?」

「き、貴様ああああぁぁっ!!」


 壁際に移動してグラビティダウンをやり過ごしながら挑発していく。

 明らかに怒り心頭の代行を目の前に、俺は視線をこっそりと観客席へ向ける。

 首藤さんは当初、乗っ取り野郎のメインキャラを使ってワンアースをプレイしていた。

 しかし、首藤さんがギルドを抜けて元々のメインキャラではなく、俺に合わせてセカンドキャラのエリザを作成して一緒にプレイしている。

 そして今は乗っ取り野郎が使っていたゴールドのアカウントを代行が使っている。

 そうなると、乗っ取り野郎が使っているアカウントはとなれば――


「……いた、あいつか」


 俺は視界に首藤さんが最初に使っていたアカウント――フェゴールを見つけた。

 この映像は視界を通して外部にも送られている。

 それを首藤さんが確認しているだろうし、協力者の伍代さんも見ていることだろう。

 ここで代行を倒し、フェゴールの正体を公にする。

 ……まあ、フェゴールが突っ込んできてくれればありがたいのだが、さすがにそこまでバカではないだろう。

 しかし、乗っ取り野郎がやらかしそうなことは考えてある。その対策のために首藤さんはログインせずに待機してくれているんだけどな。


「……くくくく」

「なんだ? 降参でもするつもりか?」

「まさか。俺はお前に勝つ。その方法は――問わないぜ!」


 代行がそう口にした直後、俺はレヴォの動きが自分の意思とは異なる動きをしていることに気がついた。


(……どうやら、仕掛けてきたみたいだな!)


 外部から俺のアカウントに干渉しようと乗っ取り野郎が画策したのだろう。

 右手を何度か閉じたり、開いたりしてみたが、明らかなタイムラグが発生している。

 これでは最大の長所である敏捷を活かすことは難しいだろう。


「さあ! ここから一気に終わらせてやるぜ!」


 俺の動きが阻害されていると判断したのか、代行はグラビティダウンを解除してこちらへ突っ込んできた。


「乗っ取り野郎も乗っ取り野郎だが、お前もお前だな」


 だが、俺の動きが阻害されていたのは右手をグーパーしていたさっきまでだ。


 ――ガキンッ! ズババババッ!


「ぐはあっ!? な、何が起きていやがる! どうして動けるんだ!」

「なんだ、その発言は? まるで俺が動けないみたいなものいいじゃないか?」

「ちっ! てめぇ、何かしていやがるな!」

「それはこっちのセリフだろう。まあ、本物のゴールド様ならこれくらい大したことないだろうがな」

「くそ……くそがあっ! 話が、違うじゃねえかよおおおおっ!」


 怒声を響かせた代行が神話級のセット装備スキルを発動させようとした――しかし。


「……な、なんだ? 何も、起きないだと?」

「そのスキル、発動条件があるんだよ。知らなかったのか?」


 俺は代行の耳元でそう呟くと、その場で暗黒竜のオーラを発動させる。

 さらに下剋上スキルを発動させて代行の体力数値を半分に減少させた。


「さあ、終わりにしようか」

「くそが! くそ、くそ、くそおおおおぉぉおおぉぉ――ぐがああああぁぁっ!?」


 俺は最後の猛攻を仕掛け、代行を圧倒する連撃をこれでもかと叩き込んでいく。

 暗黒竜のオーラと下剋上スキルの効果が続く五分間は攻撃に専念しようと思っていたのだが、予想以上に早く代行が戦意を喪失させた。


「ま、負けだ! 俺の負けだ! もう、許してくれええええっ!」


 代行の情けない声が闘技場に響き渡ると、舞台の中央にレヴォが勝利したという巨大なウインドウが表示されたのだった。

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