121.違和感
「な、なんだと!?」
「ここからは――俺のターンだ!」
レジェンディアーが地面を穿ち大穴を作り出したが、すでに俺はその場から離れている。直撃を避けたとはいえ、その余波でもダメージは入ってしまうからな。
そして俺が移動した場所はというと――
「ぐはっ! ごがっ! げばばばばああああっ!?」
「背後を取られるとか、ゴールドなら絶対にやらないぞ!」
ユーザーとの戦闘の場合、背後は弱点判定になってくれる。
故に、俺の攻撃は暗殺剣と暗殺者の一撃のおかげで八倍のダメージをゴールドに与えていた。
「ふ、ふざけやがって! ぬおおおおおおおおっ!」
「はっ! 攻撃を受けた途端に神話級防具のスキルを発動とか、代行の名が泣くぞ!」
「黙れ! これで貴様を圧倒してやる!」
絶対防壁のスキルは確かに相手を圧倒できる。
何せこのスキルは、地面に顕現した範囲にいるだけで全てのダメージを無効化してしまうという、チート級のスキルなのだ。
これがあるだけでたいていのダンジョンボスは問題なく倒せてしまうし、メインクエストを進めるのもだいぶ楽になる。
しかし、ゴールデン・ブレイドと同じように、絶対防壁にもマイナス面は存在している。
ゴールデン・ブレイドのマイナス面に気づいていなかったわけだし、こちらのスキルにも気づいていないだろう。
「これで俺は無敵だ! ぶっ殺してやるぞ、レヴォ!」
「……なんだって?」
「んなあっ!? き、貴様、逃げるつもりか!」
俺は絶対防壁の範囲外へ逃れると、闘技場の壁にもたれて腕組みをする。
「逃げるというか、その中じゃあどうしようもないからな。攻撃したかったらさっさと出て来いよ」
「き、貴様ああああっ!」
「言っておくが、絶対防壁は発動し続けるだけで魔力を大量に消費する。このまま中に居続けるだけで、お前の攻撃の幅は一気に少なくなることになるぞ?」
代行を引き受けた時に各スキルを試しに発動とかしなかったんだろうか。
おそらくこの代行、ここ最近で知名度を高めてきた若いユーザーかもしれない。
ベテランの凄腕であればこんなミスは絶対にしないはずだ。
新進気鋭の若手代行! とかを売り文句にしているユーザーなら、いきなり天童寺財閥の御曹司から代行を頼まれたとあらば二つ返事で引き受けただろうし、理不尽な指示でもできると答えてしまうだろう。
そうしてミスがミスを呼び、目の前の状況が生まれてしまったというわけだ。
これなら御曹司野郎が出てきた方が多少はマシ……なわけないか。
どちらにしても、俺の敵ではなかっただろうな。
「おいおい、あいつ本当にゴールドなのか?」
「最近のゴールドは派手だったけど、格好良さはなくなってたよなー」
「ってかさー。自分の装備なのにグダグダじゃない?」
「レヴォが言っていた乗っ取りって、本当だったんじゃないの?」
観客席からそんな声がちらほらと聞こえてきた。
だが、中にはゴールドを擁護する声も聞こえてくる。
「あり得ないって! だって、ゴールドだぞ?」
「そうだ、そうだ! 運営だって乗っ取りとかがあったら慎重に調べるだろう!」
その運営に天童寺財閥の人間がいたんだが、それももう過去の話ってことなのかねぇ。
しかし、ここまでの戦いを見てもそういうってことは……あいつらは御曹司野郎の差し金かもしれないな。
「それじゃあなんで今までみたいに戦えないんだよ!」
「そうだ! 本物のゴールドなら、レベル差もあるし簡単に倒すだろう!」
「装備も上手く使えないとか、論外だわ!」
とはいえ、ほとんどのユーザーがゴールドに違和感を覚えていた。
ここまでやれればあとはぶっ潰すだけでいいだろう。
ゴールドのМPはほとんど上げていない。というか、筋力に極振りしていたと言っても過言ではないのだ。
装備も筋力が上がるものを中心に選んでいたし、絶対防壁で魔力が尽きるのも時間の問題だろう。
「……くそっ! 仕方ない、今度こそぶっ殺してやる!」
「ようやく出てきたか。だがまあ――俺は暗殺者だぜ?」
ゴールドが絶対防壁を解除して突っ込んできた直後、俺は一瞬にしてこいつの視界から消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます