119.闘技場

 ログインをした俺は正体を隠すために暗黒竜鱗の仮面を外し、フード付きの外套を羽織りすっぽりと顔を隠す。

 その足で闘技場のある都市へ向かったのだが……案の定、多くのユーザーが集まっていた。


「おい! レヴォはいたか!」

「こっちにはいないわ!」

「あっちにもいないぞ!」

「ちくしょう! 本当にいるんだろうな! ギルドに勧誘したいってのに!」


 俺がアップした動画だが、最後に見た時には300万再生に届いていた。

 これからまだまだ伸びるだろうし、闘技場に集まるユーザーの数も時間が経つごとに増えていくことだろう。

 ……配信そのままの姿じゃなくてよかった。


「どれ、ゴールドは……まだいないか。だけど……」


 ……怪しい動きをしているユーザーは結構多いな。おそらくだが、こいつらはゴールドギルドの連中だろう。

 俺を見つけ次第殺せ、とか言われているのかもしれないな。もしくは捕まえて引っ張り出せ、とかか?

 ゴールドのアカウントを持っている普通の奴なら真正面からぶつかっていくだけで勝てる! と思いそうなものだが、どうにも慎重だな。

 確実に勝てるという確定状況じゃないと何もできない臆病者、かもしれない。


「……こいつは意外と楽勝かも?」


 そんなことを考えていると、雑踏の奥が何やら騒がしくなった。


「ようやくお出ましか」


 金色の甲冑を身にまとったゴールドを先頭に、ズラリとギルメンを引き連れたゴールドが闘技場の前にやってきた。

 周囲にもギルメンを配置しているくせに、ずいぶんと周りからの反応にも気を配るんだな。


「……誰だ、あいつは?」


 あのキング、今までと雰囲気違くないか? あんなにも堂々とした歩き方も態度も、していなかったんじゃあ……まさか、御曹司野郎!


「代行に依頼しやがったな?」


 俺のアカウントを奪って使っただけじゃなく、別のユーザーに使わせるとか、マジで最悪だな。

 だがこれは、俺の勝利を大きく遠ざける戦法であり、御曹司野郎としては最高のカードを切ったと言わざるを得ない。

 正直なところ、御曹司野郎の腕は中の下くらいだと思っていた。

 ゴールドを使っての戦闘が全くなっておらず、むしろ他のランカーたちの足を引っ張る場面も散見していたからだ。

 しかし、代行――レベル上げやランキング上げをユーザーの代わりに引き受ける奴らが、今回の一対一を引き受けたとなれば苦戦は必至。

 何せこいつらは自分たちが扱う武器であればトップランカーに勝るとも劣らない技術を有している。

 ゴールドが持つレベルや装備に技術が加わるか……はは、楽しみじゃないか!


「聞けええええ! レヴォオオオオ! 俺はここにいるぞおおおお!」


 いねぇじゃねぇかよ。

 だがまあ、周りのユーザーはわからないから仕方ないか。

 そうなると、ここでずっと隠れているわけにはいかないな。


「いくのかにゃ?」

「あぁ、いってくるよ」

「気をつけるんだにゃ! 僕は……応援しかできないのにゃ」

「……大丈夫だよ。安心して見守っていてくれ、ニャーチ」

「わかったにゃ!」


 満面の笑みを浮かべたニャーチの頭を優しく撫でながら、俺は装備を付け直して闘技場の前に進み出た。


「……ほほう? 逃げずに出てきたか、レヴォ」

「……ゴールドはどこだ?」

「何を言っている? 俺はここにいるだろう」


 しらを切るつもりか。

 俺はゆっくりとゴールドの目の前まで移動すると、こいつにしか聞こえないだろう小さな声で告げた。


「……代行、だろ?」


 せっかくの盛り上がりを蔑ろにするつもりはない。

 本当は直接対決で御曹司野郎をぶっ潰したかったが、こうなってはどうしようもない。

 ならどうするか? ……楽しむしかないだろう!


「……よくわかったな」

「……安心しろ。誰にも言っていないからな」


 そこまで告げた俺は三歩下がってゴールドを見ると、ニヤリと笑った。


「何が目的だ?」

「こうなったらとことん楽しもうと思ってな。このままの状況で叩き潰すのもありだろう?」

「俺に勝てるとでも思っているのか?」

「動画でも言ったが、俺が本物のゴールドだったんだ。なら、俺の技術力は理解しているんじゃないか?」

「あの内容が本当ならだがな。俺はそれを確かめるためにここへ来たんだ」


 そう口にした代行は大剣をドンと地面に突き刺した。


「叩き潰してやるぞ、レヴォ!」

「いいぜ、やってやるよ!」


 俺たちがそう口にした途端、周囲のユーザーたちから大歓声が巻き起こった。

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