118.協力者
「――……ん? なんだ、これは?」
動画の反響に驚きながら見守っていると、一通のメールが届いた。
俺のメールアドレスを知っているのって…………うーん、誰だ?
わからないなら差出人だけでも確認するべきだろうと思いメールアプリを起動すると、そこには意外過ぎる名前が書かれていた。
「……は?」
「どうしました、隼瀬さん?」
「……ワ、ワンアース運営の、室長を名乗る奴から、メールが届いた」
「……えぇっ!?」
な、何が起きているんだ? まさか、俺がゴールドにちょっかいを出しているから、それを止めさせようってのか? ワンアースの重要な金の生る木だから?
……いや、天童寺財閥の問題が発覚した時点で、天童寺の御曹司がユーザーだと宣言したゴールドを守る理由はないはずだ。
なら、いったいなんの用だというのか。迷惑メールの類か? だが、タイミングが良すぎる。
「……これ、本物かもしれません」
「どういうことですか、首藤さん?」
「室長の名前は私も聞いたことがあります。ここ……伍代って名前、間違いなく室長の伍代巌のことだと思います」
「それじゃあ、本物のメールってことですか。……ひとまず、本文を見てみますか」
「はい」
メールを開いて本文に目を通していく。
その内容を見て目を見開いた俺は、首藤さんと目を合わせた。
「……これ、本当でしょうか?」
「伍代さんは信用できる方ですが、この内容は……さすがに確認してみなければわからないですね」
「……そういうことなら、確認してみますか」
室長からのメールの内容を簡潔にまとめると――
『――協力求む。私の権限の全てを持ってあなたを手助けしたい』
というものだ。
これが事実であれ嘘であれ、連絡せずにゴールドとの戦い当日に邪魔をされては堪ったものではない。
天童寺財閥を追い出したとはいえ、ワンアース運営の中に天童寺派が絶対にいないという確証もないわけだしな。
それにもし協力してくれるというのであれば……手を出さないでもらいたい。
これは俺と御曹司野郎……いや、レヴォとゴールドの問題だからだ。
「……これでいいだろう」
「連絡はくるでしょうか?」
「あっちから連絡してきたんです。まさかこないなんてことはないでしょう」
これで連絡がなかったら、それこそ冷やかしではないか。
そんなことを考えていると、予想よりも早いタイミングで携帯が鳴った。
「……はい、隼瀬です」
『――……連絡をいただき感謝いたします、隼瀬さん。私はワンアース運営の室長をしております、伍代巌と申します』
どうやら、マジもんだったみたいだな。
俺は首藤さんと目だけで合図を取り、話を進めた。
「それで? メールに書いてあった手助けとは、どういうことでしょうか?」
『――……まずはあなたに謝罪をしたい。今回、あなたはゴールドが乗っ取られた際、こちら側へ問い合わせをしてくれていた。だが、それを天童寺財閥から出向してきた者によって抜き取られ、私の目をすり抜けていた。大変申しわけ――』
「その事実はもう知っている」
『――……そ、そうなんですか?』
「それと、年下を相手に敬語も面倒でしょう? どうです、普通に話をしませんか?」
『――…………そう言っていただけると、助かる』
相手が大きく息を吐き出し、僅かだか肩から力が抜けたのが電話越しにでもわかった。
「実はこっちに味方してくれている人がいましてね。その人が元天童寺財閥の人間なんですよ」
『――んなっ!? ……そ、それは信頼できる者なのか?』
「はい。今のところは伍代さんより信頼できると思っています」
『――……まあ、そうだよな。だが、俺も天童寺財閥の所業には苛立っていてな。あいつらを追い出したところで、まだまだ残していった面倒の方が多いんだ。それに続いて隼瀬君ば暴露したネタだ。正直、頭を抱えたよ』
まあ、あれはユーザーたちに運営の確認不足を知らしめた格好になっちまったからな。
『――だが、同時にチャンスだとも思った』
「チャンス?」
『――あぁ。これで完全に膿を出し切れるとね。だからこそ協力を申し出たんだ。私は職を辞する覚悟で隼瀬君に連絡をしたつもりだよ』
……全く。俺の周りには職を辞することをいとわない人が多すぎないか?
「……それは遠慮しておきます」
『――だが、そうしなければゴールドには』
「その代わりじゃないですが、一つだけ協力してほしいことがあります」
『――……聞かせてもらってもいいか?』
「はい。それはですね――」
こうして俺は室長――伍代さんに協力を取り付け、彼からの連絡を待つ間にもワンアースへログインした。
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