117.動画の影響

 光輝の動画はワンアースに大きな波紋を広げていた。

 レヴォの言葉を信じる者、信じない者。

 ゴールドの反応を待つ者、確認しようと動き出す者。

 ワンアース内でもゴールドが偽物なのか否かという話題で盛り上がっており、クエストを進めるユーザーの方が少なくなってしまうほどだ。

 それらの反応を頭を抱えて見ていたのは、ワンアース運営の室長を務めている伍代ごだいいわおだった。


「……全く。天童寺財閥はどれだけワンアースを引っ掻き回せば気が済むんだ」


 ため息をつきながらそう口にした巌は、この騒動にどのような幕引きを用意するべきか考えていた。

 レヴォとゴールドがぶつかるのは止められない。むしろ、運営が介入して止めてしまえば多くのユーザーから抗議の声が届くだろう。

 ならば個人の問題ということで放置するのが正解かと言えば、そうではない。

 なぜならゴールドの乗っ取りは天童寺財閥がワンアース運営として仕事をしている時に起きた不正だからだ。

 ワンアースは不正に対して確認不足を露呈したと言われても否定できない。


「……これ以上掻き回されるのは、さすがに許せんぞ」


 巌は何かを覚悟したかのように表情を引き締めると、動画をアップしたアカウントであるレヴォの情報を調べ始めた。

 ギルド対抗イベントの時に手を貸したことは誰にも知られていない。いや、もしかしたら気づかれていたかもしれないがお目こぼしされていたのかもしれない。

 だが、これ以上個人のユーザーに手を貸すのは自分の人生を狂わせるかもしれなかったが、そうも言ってはいられなかった。


「事後報告でいい。どうか、俺の提案を受け入れてくれよ?」


 レヴォの登録情報を確認した巌はメールアプリを開き、言葉に気をつけながら文章を打ち込んでいく。

 これを受け入れてくれなければ、ワンアースは衰退の一途をたどることになるだろう。

 しかし、セカンドキャラを作ってまでゴールドに立ち向かった相手であれば、メインキャラへの執着も相当なものがあるはずだ。


 ――カタンッ!


「……よし、送信完了だ」


 目頭を強く抑えながら背もたれに全体重を預けると、そのままゆっくりと目を開けて真っ暗になった天井を見つめた。


「……新しい職場でも、探しておくかなぁ」


 巌は今の会社に骨を埋めるつもりで働いてきた。

 しかし、会社自体が傾いてしまえばそうも言っていられない。

 守るべき家族もいるのだから当然だ。


「……いや、ギリギリまで粘ってみるか。俺のワンアースに対する愛情は、こんなことで折れるもんじゃねえしな」


 椅子から立ち上がり一度ストレッチをすると、大きく深呼吸を繰り返す。


「……退職金、いくらになるかなぁ」


 とはいえ不安はある。そんなことを考えれていると――


 ――ポン。


「ん? メール……まさか、もう返信が来たのか!」


 モニターを背にしていた巌は勢いよく振り返ると、椅子に腰掛けることなく立ったままメールアプリを開いた。


「……はは、マジか。まだまだ俺にも運が残っているみたいだ!」


 本文を視線でなぞりながらそう口にした巌は、自然と笑みを浮かべていた。

 そしてグッと拳を握りしめると、次の行動へ移るべく動き出したのだった。

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