116.ゴールドと天童寺百弥
「――な、なんだこの動画はああああぁぁっ!!」
モニターを目の前に、百弥は今まで発したことのないほどの怒声を響かせた。
部屋の中には楓の代わりに秘書として派遣された女性がいたのだが、彼女はびくっと体を震わせて壁際で立ち尽くしている。
今の状態の百弥には楓も耐えることはできただろうが、声を掛けることはできなかっただろう。
「それに何なんだ、このコメントは!」
百弥の怒りは動画の内容もそうだが、それを見たリスナーからのコメントにも注がれていた。
『――えっ? ゴールドって偽物なの?』
『――まあ、天童寺財閥の御曹司様だろ? あそこは問題ばっかりだなー』
『――マジならアカウント削除か?』
『――削除! 削除! 削除! 削除!』
コメント欄にはゴールドだけではなく、天童寺財閥を貶すコメントで溢れていた。
『――でも、レヴォって奴は自分で片を付けたいって言っているんだろ?』
『――たかだかレベル120でレベル270のゴールドを倒せると思うか?』
『――大穴レヴォが勝つ! これ、運営が対応してくれないかな!』
『――個人の確執に運営が手を貸すことはないのでは?』
さらに勝利者予想が繰り広げられており、こちらもややレヴォ優勢といった見方が強かった。
レベル差を考えればゴールド優勢と思われたが、アカウントを偽物が使っているとなれば技術の問題が出てくる、と言ったコメントが多かったのだ。
「……俺様が、たかが一般人に劣るだと? ふざけるな! 絶対にぶっ潰してやる! アカウントを消してやるか? もしくはまた奪ってやるか?」
掌に爪が突き刺さるほどに拳を握りしめ、百弥はぶつぶつとどうすればいいかを呟いていく。
しかし、問題は山積みだ。
天童寺財閥は先の不正発覚により多くの取引先から手を引かれてしまった。
この状況でも手を取ってくれたのは先代社長の代から取引をしてくれた会社ばかりだが、これ以上の不正が発覚すればそれらも失うことになるだろう。
それも以前のワンアースに対する不正の延長線上――否、不正のきっかけになったのがゴールドの乗っ取りなのだから、取引先だけではなく全てを失う可能性も考えられる。
「それに楓の奴だ。あの野郎、レヴォだったか? こいつと一緒にいやがったよなぁ。ってことは、乗っ取りの対策をしている可能性が高い。……ちっ、アカウントを奪うのは難しいか」
百弥がゴールドを乗っ取った時の内情を楓は知っている。
彼女が何かしら対策を講じているとなれば、乗っ取りは難しいだろう。
天童寺財閥はすでにワンアース運営からも排除されており、そちらを操ることもできない。
そこまで考えると、百弥ができることはたった一つしかないという結論に至った。
「……いいだろう、真正面から徹底的にぶっ潰してやる! そして俺が本物のゴールドだってことを知らしめてやる!」
不敵な笑みを浮かべた百弥は椅子から勢いよく立ち上がると、壁際に立っていた女性に声を荒らげた。
「おい!」
「は、はい!」
「なんでVRカプセルの準備ができてねえんだ!」
「で、ですが、本日はログインされないとおっしゃっていたので……」
「あぁん? てめぇ、俺様に逆らうつもりか!」
「きゃあ!?」
モニター横に置いてあったマグカップを勢いよく投げつけ、女性の顔の真横の壁が大きな音を立ててへこんだ。
「ひいっ!?」
「さっさと準備をしろ! 今すぐだ!」
「は、はい! かしこまりました!」
涙目になりながら女性が準備を終えると、百弥は舌打ちをしながらVRカプセルに乗り込んだ。
「今日の予定は全てキャンセルしておけよ、いいな!」
「わ、わかり、ました……」
VRカプセルの扉が閉まると、女性はその場で両膝をついて泣き出してしまう。
当然ながらそのことを百弥が知るはずもなく、彼の頭の中はレヴォをどのように叩き潰すか、それだけに思考を持っていかれていた。
◇◆◇◆
『――……あー、あーあー。こんにちは、俺はレヴォ。この動画を見てくれているリスナーに告げることがある。俺はレヴォだが、本当はゴールドだった』
『――……どういう意味かわかるか? ゴールドのアカウントを乗っ取られたんだ。あの、天童寺財閥の御曹司にな』
『――俺はその時に全てを奪われた。アカウントも、チャンネルリスナーも、そこで得られる収益も、全てをだ』
『――だからここで宣言する。俺はゴールドを叩き潰す、宣戦布告だ』
『――ゴールド……いや、乗っ取り野郎。お前もきっとこの動画を目にすることになるだろう』
『――俺はこの動画をアップしてから24時間の間、闘技場で待っている』
『――否定したければ、俺と一対一で勝負しろ。そこでお前を叩き潰してやる!』
これが、光輝がレヴォとしてアップした動画の内容だった。
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