第四章:決着の時

115.宣言と暴露

 ――その日の夜。

 俺はエリザとリンに協力してもらい挑発動画を撮影した。

 今までは俺が自分で編集まで行い、それも上手いとは言い難い出来だったのだが、今回は過去最高の仕上がりとなった。

 ……まあ、挑発動画が過去最高の出来というのもどうかとは思うが、今回は仕方がないだろう。

 何せ挑発する相手がゴールド――いや、天童寺財閥の御曹司野郎なんだからな。


「……よし、アップ完了。俺のチャンネルにも結構なフォロワーがついてきているし、どれくらいの再生回数になることやら」


 動画タイトルは誰でもわかるようにと『暴露! ゴールドの事実!』としている。

 レヴォをフォローしている奴もそうだが、ゴールドで検索を掛けたリスナーにも引っかかるようにしたのだ。


「お、いきなり100を超えた……ん? 500……1000……に、2000?」


 ……おいおい、なんか、一気に膨れ上がっていないか? 俺、そんなに有名人だったっけか?

 俺のチャンネルのフォロワー数は、増えたと言ってもたかだか10万人、つまり今のゴールドチャンネルの十分の一ってところだ。

 アップしてすぐはそこまで伸びないと思っていたんだが……ん? なんだ、これ?


「いつの間にか、フォロワー数が増えてないか?」


 まさか、シェイルフィード討伐のライブ配信で一気に増えたっぽい?


「……はは、あの配信だけで100万人突破とか、あり得ないだろう」


 いや、あり得るか。なんて言ったって俺が配信しているゲームは、20億人以上のユーザーがプレイしている大人気VRゲーム、ワンアースなのだから。

 再生数はあっという間に1万を超え……10万を超えていく。

 こんな視聴のされ方は、ゴールド時代にもあり得なかったことだ。

 挑発動画を見てくれた人たちはきっとSNSでも拡散してくれるだろう。

 そうすればあっという間にレヴォを知らないユーザーにも届き、さらに再生数は加速していく。

 きっとゴールドチャンネルに直接書き込んでいるリスナーだって出てくるはず。


「そうなれば、逃げられないだろう?」


 もちろん、挑発動画を無視することもできる。

 しかし、そうなればリスナーはさらに離れていき、ゴールドというアカウントがいたことすら忘れ去られてしまうだろう。

 ゴールドをランキング1位にした俺としては寂しい気持ちがないわけではないが、今はそれでもかまわないと思っている。

 今の俺にはレヴォがいて、さらに妙に慕ってくれる仲間もできた。

 ゴールドとしてプレイしていたら、絶対に手に入れることができなかった仲間だったはずだ。


「それに、きっと運営にもこの暴露動画は届くはずだ。リスナーからも、運営からも突かれる御曹司野郎がどういう反応をするのか……この目で見てみたかったなぁ」


 エリザをさっさと解雇してしまうような逆上野郎だ。きっと手当たり次第の物を壁や床にぶん投げているに違いない。

 そして、レヴォを叩き潰そうとしてくるだろう。

 もしかすると、ゴールドの時のように乗っ取りを仕掛けてくる可能性だって否定できない。

 ……まあ、乗っ取りへの対応もすでに済ませているんだけどな。


「まさか、本当にここまで来てくれるとは思わなかったよ――エリザ」

「こ、ここここ、ここでは、楓と呼んでください、隼瀬さん!」

「あはは。さすがにいきなり下の名前は……それじゃあ、首藤さんで」

「あ、あり、ありがとうございます!」


 なんでお礼を言われているんだろうか。お礼を言わないといけないのは俺なんだが。

 エリザこと、首藤さんはプログラミングに詳しいらしく、俺にはよくわからないが乗っ取りとかウイルスとか、そういった方面への対策もお手の物なのだとか。

 ゴールドを乗っ取ったのは彼女ではなく、専門のハッカーに金を積んで依頼していたようなのだが、その際も首藤さんはハッカーの作業を見ていたらしい。

 そのおかげもあって対策を講じる手助けをしたいと手を挙げてくれていた。

 正直、作業を見ていただけで対策を講じるとかできるものなのかと疑わしくはあるが、俺自身がそこら辺の知識を持ち合わせていないので疑っても仕方がないところではある。

 まあ、ここまで来て裏切るとかはないと信じたいし、俺は首藤さんを全面的に信じることにした。


「リンはワンアースの中で知り合いに声を掛けてくれているんだよな?」

「はい。面白い動画がアップされていると宣伝してもらっています」

「ランカーの知り合いにランカーが多いのは道理だから、上位層でも広がってくれるのはありがたい。……まあ、俺は例外だったけど」


 俺にランカーの知り合い……というか、フレンドなんて一人もいなかったんだよなぁ。

 それを考えると、マジでレヴォってすごいわ。もしかすると、ランキング1位独占のゴールドより偉業を達成したんじゃないか?


「……よし! これで問題ないはずですよ、隼瀬さん!」

「ありがとう、首藤さん。それじゃあ俺はしばらくこっちの反応を見ているけど、どうする?」

「あの、その……ご、ご一緒してもいいですか?」

「俺は構わないけど……その、自分で言うのもなんだけど、初対面の男の部屋でゆっくりしていていいの?」

「構いません! ゴールド様でありレヴォ様であり隼瀬さんですから!」

「……あぁ、わかった。それじゃあ、一緒に見ていようか」

「はい!」


 何が構わないのかはわからなかったが、俺は少し気恥ずかしくなりながら動画に寄せられたコメントや、ゴールドチャンネルがどうなっているのかの反応を見守ったのだった。

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