109.シェイルフィード

『――……またか、人間どもよ』

「眠りを妨げたこと、謝罪する。だが、俺たちはあなたを討たねばならない」

『……ほほう? 先ほどの無駄に目立つ人間よりは、礼儀がなっているようだ』


 無駄に目立つって、絶対にゴールドだろうな。全身金ぴか装備だし。


「本当に、モンスターと会話が成り立つのですね」

「おぉぉ、なんか、テンション上がるなー!」


 シェイルフィードとの戦闘が初めてだった二人は驚きと感動と、対照的な反応を見せている。

 とはいえ、それはどっちでも構わない。どちらにしても、このあとの展開は変わらないのだから。


『どれ、胸を貸してやろう』

「そう言って負けたらどうするつもりなんですか?」

『礼儀はなっているが、だいぶ自信過剰なようだ』

「そうでもしなければ、あなたの前に立ってはいないでしょう」

『然り。ならば、そなたの問いに答えるとしよう。もしもそなたらが我を討てたのであれば、相応の報酬をくれてやる』


 シェイルフィードがそう口にすると、目の前にウインドウが表示された。


【■自動生成クエスト:始祖竜シェイルフィード ■クリア条件:シェイルフィードに勝利 ■クリア難易度:S ■クリア報酬:神話級素材選択BOX ■※このクエストは強制参加です】


 神話級素材選択BОXが手に入るのだから、ここは絶対に失敗できない。

 しかし、ゴールドでクリアした時は気づかなかったが、この書き方……少し気になるんだよなぁ。もしかすると、これも――


『では、始めるとするか』


 おっと、どうやらクエストスタートとなるようだ。

 考えるのは後回しにして、今はシェイルフィードに集中しよう。というか、よそ見をして倒せる相手ではないからな。


「エリザ! リン! 作戦通りに頼むぞ!」

「わかりました!」

「りょうかーい!」

「フィーは全員にバフを頼む! それと、新魔法もだ!」

「はいなのー! エアヴェール! 続けてエアアーマー!」


 俺たちにエアヴェールが掛けられると、続けて風の鎧をまとうことができるエアアーマーが発動される。

 風の鎧をまとうことによって、耐久力100までであれば鎧が攻撃を身代わりに受けてくれる。

 シェイルフィードの攻撃なら一撃で耐久力を全損するはずだが、一撃は確実に受け止めてくれるので非常にありがたい魔法の一つだ。

 今回のフィーは援護に回ってもらう。

 エアアーマーが剥がされたらもう一度掛け直してもらい、可能な限り倒される確率を低くする。

 それはエアヴェールも同様で、風に特化したタイプのシェイルフィードは敏捷が異常に高い。

 この敏捷に少しでも対抗できるようにしなければ、いつ倒されたのかもわからないくらいあっという間にやられてしまうだろう。

 事実、シェイルフィード討伐を達成できたユーザーはほとんどおらず、ソロ討伐に至っては俺以外には見たことがなかった。

 トップランカーでも苦戦する相手に、俺たちはパーティとはいえレベル100の中堅程度の能力値で挑もうというのだから、自殺願望があるのかとコメントが来ても仕方がなかった。


「まあ、これからはコメントに目を通している時間はなくなりそうだ!」

『手始めにブレスでもどうだ?』

「攻撃を宣言するなんて、紳士なんですか?」

『簡単に倒れてしまってはつまらんからな。あの無駄に目立つ人間のように』


 さっきから無駄に、無駄にって、相当気に食わなかったんだな、御曹司野郎のことが。

 だがまあ、シェイルフィードの言葉も配信には残っているし、これがゴールドのことを指していることはおのずと伝わっていくだろう。

 俺としては勝手に広がっていく可能性が高くなったので、非常にありがたいことだった。


『さあ、食らうがいい!』

「あいにくと、ブレスに付き合う痛い趣味はないんでな!」


 吐き出された青色のブレスを、俺は真横に走り出して全力で回避行動へ移っていく。

 あのブレスだけは絶対に当たってはダメだ。

 あれはエアアーマーを剥がすだけではなく、一度当たってしまうと5分間は継続ダメージが付与されてしまう。

 そのダメージ量もえげつなく、1秒ごとにHPの1パーセントが減ってしまう。

 それはつまり、100秒経過すると確定の死が訪れてしまうのだ。

 そもそもブレスを食らった時点でダメージが入るので、実際にはもっと早いタイミングで死んでしまう。

 回復させることも可能ではあるが、シェイルフィードとの戦いにおいて回復を意識するのは愚の骨頂。最初からブレスには当たらないことを意識しなければ、絶対に勝てないと俺は考えていた。


「それじゃあ次は、こっちの番だ!」


 ブレスを吐き終えた直後、俺は軌道を直角に変更して、シェイルフィードへ突っ込んでいった。

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