110.怒涛

「ダークエッジ! 瞬歩!」


 ダークエッジを撃ち出した直後、俺は瞬歩を使用する。

 先に撃ち出したダークエッジを追い越し、そのままシェイルフィードへ肉薄し、シンボル・オブ・ブラッドと隼の短剣を振り抜く。

 相手は神話級モンスター、さらに言えばまだ弱点が露出していない。

 この状況では俺の実力を十全に発揮することはできないだろう。

 だが、今はそれで仕方がない。

 弱点の露出、これは攻撃を加えることでなされることなんだからな!


『バカ正直に真正面から! そなたは本当に面白い!』

「真正面からだと? 本当にそう思ったのか?」

『なんだと? 何をバカなことを――なっ!?』


 シェイルフィードの間合いに入った途端、彼女は竜尾を振り回して攻撃してくる。

 そして、それはこの攻撃を予測していた。

 新しく手に入れたスキル、シャドーウォークを使い影の中へ避難する。

 はは、シェイルフィードの驚きの顔が目に浮かぶ。

 しかしこのスキル、影に入っている間は周囲の状況が見られないんだな。もっと検証をしておくべきだったか。

 だがまあ、問題はない。想定内だ。


『なんだ、そのスキルは! ちっ!』


 おっと、音は聞こえるんだな。不思議な気分だ。

 それに先ほどの声は、ダークエッジが弾かれたのだろう。

 まあ、ダークエッジでダメージが与えられるとは思っていない。あれはあくまでも陽動であり、こんな攻撃もあるのだと見せつけるだけのものだ。

 影に入った場所からシェイルフィードまでの距離は把握している。だから、地上の状況が見えずとも――


「お前の背後を取ることができる!」

『背後だと!?』

「はああああああああっ!」

『ぐはっ!!』


 弱点ではないが、ここを攻撃することが一番なんだ!シェイルフィードの背後、首元を狙えばいずれ!


『貴様、なぜそこを!』

「さあな! だが――俺だけに意識を集中させていていいのか?」

『何を言って――あ、足が!?』

「全くです。無視するなんて、酷くないですか?」

「ぶっ飛ばーす!」


 俺は大きく飛び上がり木の上へ。

 直後には地面に氷が広がっていき、シェイルフィードの四肢と共に凍り付かせていく。

 飛び上がった木までが凍っていく様を見て、俺はコキュートスの威力が相当なものだと改めて実感してしまう。


「……はは、これでレベル100かよ。これ、ステータス特化で成長させたらどうなるんだ?」

『くっ! この程度の、氷でええええっ!!』


 ――バキバキッ! バリンッ!


 おっと、今はそんなことを考えている時間はないか。

 シェイルフィードが氷を砕き、そのままエリザとリンに襲い掛かろうとしている。

 だからこそ――今ならいける!

 木の枝から飛び上がると、さらに上にあった枝へ。だが、上に乗るのではなく、下を蹴りつける。

 そのまま勢いをつけ、重力に従い一気に落下していく。

 加速を乗せた俺の一撃が向かう先は当然――シェイルフィードの背後、首元だ!


『ぐはっ! 貴様、いつの間に!』

「そろそろじゃないか? 弱点の露出!」

「地上はお任せを、レヴォ様!」

「んもー! 私だって神話級武器が欲しかったよー!」

「我がまま言うんじゃない! 十分役に立ってくれているじゃないか!」

「え? そ、そう? よーし、頑張るぞー!」

「な、なんて羨ましい! 私だって負けませんよ!」


 ……何が羨ましいんだ?


『くっ! ならばこれでどうだ、人間どもよ!』


 ゴウッ! と音が鳴り響き、シェイルフィードの両翼が羽ばたく。

 突風が巻き起こりエリザとリンが吹き飛ばされる。

 しかし、俺は違う。なぜなら両翼の中心に立っているのだから、風の影響はほとんどない。

 だが、これが危険ではないかと言われれば、そうでもない。

 高く飛び上がられたところで落とされてしまえば、俺の体は大きなダメージを受ける。もしかすると、一撃でHPが全損するかもしれない。

 だからこそ、一気に片を付けてやる!


「暗黒竜のオーラ!」

『な、なんだ! そのオーラは!?』


 シェイルフィードの驚きの声なんて珍しいな。

 だが、それは俺にとって好都合!


「落ちろ! シェイルフィード!」

『ぬおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!』


 暗黒竜のオーラを使った連撃を加えながらも、シェイルフィードは両翼をさらに羽ばたかせる。

 そして俺は――浮遊感を味わうことになった。

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