107.始祖竜
「――……ん? 何か音がしませんでしたかー?」
リンがそう口にした時には、俺はすでに気づいていた。
彼女が聞いた音はおそらく、御曹司野郎たちがシェイルフィードと戦闘を開始した音だろう。
バカでなければ相応の準備をしているはずだし、ゴールドのアカウントを使っているのだから俺が行くまではもたせることができるはずだ。
そこへ颯爽と駆け付け、そのままシェイルフィード討伐をかっさらい、そしてゴールドと決着をつける。
まあ、これだとゴールドが疲弊した状態で戦うことになるので言い訳をされてしまうだろうが、そこを付け込ませて次のステップへ移行する。
それは――闘技場でのタイマンだ。
ゴールドが言い訳の動画をアップしたら、そこへ俺が奴を挑発する動画をアップ、その中で決闘を申し込む。
俺の視聴者もそうだが、特にあっちの視聴者は挑戦を受けろと言ってくるだろう。
何せ過激派が多い今のゴールドチャンネルだ。そこを避けていてはさらに視聴者が減ることは目に見えて明らかだからな。
そこで真正面からゴールドを倒した後、多くの視聴者の前で俺は宣言するのだ――こいつはゴールドのアカウントを乗っ取った奴なのだと。
「……」
「どうしたのですか、レヴォ様?」
「ん? あー、いや、なんでもない」
「なーんか怖い顔をしてましたよー?」
どうやら考え込んでいたせいで眉間にしわが寄ってしまっていたようだ。
「すまん、マジでなんでもないから。それよりも、さっきの音はゴールドが戦闘を始めた音だろうな」
「えっ! では、急いだ方がいいのではないですか?」
「そうだよ! こんな楽しいイベント、なかなかないんだからさー!」
楽しいイベントって、別にイベントじゃないんだがなぁ。
とはいえ、急ぐか……必要ないんじゃないか?
「大丈夫だろう」
「どうしてですか?」
「ゴールドたちがシェイルフィードを倒せるとは思えないからな」
「わーお、すごい自信だね、レヴォさん」
「最新の動画を見たからこその確信だな。伝説級モンスターを相手に苦戦していたんだぞ? そんな奴が神話級、それも始祖竜を相手に勝てるはずがない」
俺がそう伝えると、リンも納得したのか大きく頷いていた。
「……やっぱり、おかしいなー」
「何がおかしいのですか、リンさん?」
「えー? だって、ソロで活動していた時のゴールドさんなら、伝説級モンスターなんて余裕だったじゃないですかー。始祖竜を倒した動画だってアップされていたんですよー? それなのにギルドになったら伝説級にすら苦戦っと、あり得なくないですかー?」
まあ、そう思うのも無理はないか。
普通なら仲間が増えて楽になると考えるはずだし。
……とはいえ、俺だったら逆に足手まといとか思いそうだから何も言えないけどな。
「……あのゴールド、まさか偽物?」
「なんにせよ、行ってみたらわかるだろう」
リンのことを信じていないわけじゃないが、今はまだ明かせない。
……というか、明かすと後々面倒になりそうな予感がする。
エリザと同類……いや、それ以上の絡みを要求されそうで怖いのだ。
「そうですね。行きましょう、レヴォ様」
「うーん……二人とも、リンに何か隠してませんかー?」
「隠していたとしても、今日あったばかりのお前に教えると思うか?」
「ひどーい! 同じギルメンじゃないですかー!」
「無理やり加入した奴のセリフじゃないだろう」
「そうですよ、リンさん。ほら、行きましょう!」
こういう時、エリザは何かと役に立つ。
俺が言うと角が立つが、エリザが言うとそうでもない。
この辺りはリアルの性格が出てくるんだろう、俺には無理だ。
「わかりましたー! でも、あとで必ず教えてくださいね!」
「それはどうだろうな」
「うふふ。レヴォ様の気分次第でしょうか」
「ひっどーい!」
こうして俺たちは先へと進んだ。
だが――完全に予想外だった。
まさか、すでにゴールドギルドが全滅していたなんてな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます