105.深淵の森
――深淵の森。
そこは肥大した木々によって日の光がほとんど差し込まない、薄暗いを通り越して夜ではないかと錯覚してしまうような場所だ。
ならば松明などで光源を作ればいいと思うが、そうではない。
光源ができれば、そこめがけてモンスターが殺到してしまい、あっという間に物量で押しつぶされてしまう。
俺が操るゴールドであればそれでも問題なく進むことはできるが、レヴォは戦闘スタイルも全く違うし、何より今回はパーティである。
エリザとリンを守りながら同じことが、もしくは共に戦うことができるのか。
……いいや、無理だ。
俺だけなら逃げることは可能だろうけど、二人は物量に押しつぶされる。
「というわけで今回は、隠密行動だ」
「わかりました」
「えぇー? ぶっ飛ばしたーい!」
「だったら一人で行ってきてくれ。その隙に俺たちは深淵の森の奥へ行かせてもらうから」
「よろしくお願いします、リンさん」
「ちょっと! そこは止めなさいよ! 一緒に行こうねって言ってよ!」
……なんだ、やらないのか。やってくれた方がこっちは楽だったんだけどな。
「んじゃあ文句を言うな。それに、俺は無駄に体力を消費するつもりはない。最短でゴールドのところまで向かわないといけないんだよ」
「……はーい」
「ですが、深淵の森では必ず戦闘をしなければならない場所がありますよね? そちらはどうするおつもりなのですか?」
深淵の森では光源を作り出すこともダメだが、戦闘行為もモンスターを呼び寄せることになってしまう。
だからこそ隠密行動が最重要とされているエリアなのだが、その中にどうしても戦闘を避けられない場所がある。
そこでの戦闘も周囲のモンスターを引き付けることになるので、時間を掛け過ぎると強敵と合わせて物量をも相手にしないとならない。
それはさすがに俺でも分が悪い。
「そこはまあ、全力戦闘だよな」
「策はないってことですねー」
「いいえ! 全力戦闘、それこそが策なのですよ!」
「はいはーい。……もうそれでいいよー」
策と言っていいのかはわからないが、これが最善ではある。
それに俺たちのレベルは100に到達し、スキルも獲得してより強くなっている。
さらに言えば俺とエリザは神話級装備を手にしているので、火力という面で見れば充実し過ぎているくらいだ。
だからこその全力戦闘だ。リンにはまあ……集まってくるモンスターの相手でもしておいてもらうかな。
「そんじゃまあ、ひとまずは隠密行動だ」
そう口にした俺たちは慎重に行動し、モンスターに気づかれないよう深淵の森の中を進んでいく。
足音を立てず、気配を消し、モンスターを見つければ立ち止まる。
急ぐ必要はあるが、ここで焦れば逆に時間を取られてしまう。
急がば回れ、ということだな。
そうして進んでいった先にいるのは――
「……見つけたぞ」
『『『……グルゥゥ……ゥゥ……グルゥゥゥゥ……』』』
深淵の森の門番――ケルベロス!
「では行きます!」
「私も行くねー!」
「え? いや、ちょっと、そんないきなり?」
確かに全力戦闘とは言ったけど、発見早々に突進なんて、俺も予想外なんですけどおおおおぉぉっ!?
「どりゃああああああああぁぁぁぁっ!!」
「そいやああああああああぁぁぁぁっ!!」
『『『グルア? ガルアアアアアアアア――!?』』』
目覚めと同時に咆哮をあげたケルベロスだったが、二人の攻撃によって一瞬にして三つある首の二つが斬り飛ばされてしまった。
「最後はお願いします!」
「シャドウさーん!」
「……ったく、お前ら、やり過ぎだっての!」
いいところを持っていかれちまったじゃないか!
「残念だな、ケルベロス。目覚めて10秒もしないうちに――討伐なんてな!」
『アアアアアアアア――アガビャッ!?』
他のモンスターが集まってくるなんてことはあり得ない。
何せ戦闘時間、戦闘音共に全くなかったと言っていいのだから。
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