104.ゴールドの動画

「――……ふぅ。なんか、疲れたなぁ」


 ヘッドセットを外しながら小さく息を吐きだすと、軽く首を回しながらパソコンの電源を入れてモニターと向かい合う。


「えっと、ワンアースの動画サイト……いや、ゴールドの動画チャンネルを開けばいいのか」


 俺の動画だったのでお気に入りに入ったままだった。

 ……そういえば、乗っ取られてからは一度もゴールドのチャンネルを見たことがなかったな。

 御曹司野郎、いったいどんな動画を配信しているんだ?


「どれどれ……ん? 俺が配信していた時に比べて、登録者数が減ってないか?」


 まあ、ワンアースの乗っ取りがどーのこーのと話があったわけだし、チャンネルを離れる視聴者がいてもおかしくはないが……これはさすがに減りすぎじゃないか?


「登録者数1000万人が、100万人って、十分の一かよ」


 それだけワンアース乗っ取り事件はワンアースのユーザーたちに衝撃を与え、その恩恵を授かっていたかもしれないゴールドにはヘイトが溜まったんだろう。


「あー、だから俺の過去データを解析して、俺しか知りえなかった情報を配信しようと躍起になっていたとか?」


 視聴者を取り戻そうとしていたのかもしれないが、御曹司野郎は金持ちだろう。御曹司だし。

 なら、別に視聴者が少なくなろうとなんだろうと、関係なくないか? ランキング1位さえ確保できれば。


「……まあ、動画を見てみれば何かわかるか」


 そもそもゴールドの居場所を探るためにログアウトしたのだから、他のことはとにかく置いておこう。


「さーて、最新の動画は……これだな。再生っと――」


 動画の内容は、ゴールドギルドがレイドボスと戦いそれを倒すという、どこにでもあるようなもの。

 ゴールドが持つ装備をギルメンに渡したのだろう、それぞれが派手なモーションのスキルを用いて戦っており、動画のクオリティーも結構高い。

 だが、これは……まあ、そうだろうなぁ。


「はは、低評価ばっかりだな。でもまあ、それもそうか。何せ――俺が配信していた内容の下位互換だしな」


 俺の配信ではソロでレイドボスを倒していた。

 スキルも大剣スキルの最上位に位置するスキルを駆使しており派手さもある。

 しかし、それ以上に視聴者から注目されていたのはノーダメージでレイドボスを倒した、という点だ。

 ソロでレイドボスを倒すことも規格外だが、さらにノーダメージで攻略した配信は俺の動画の中でも一番の再生数を誇っていた。

 ……今となっては削除されてしまっているようだが、それも仕方がないか。


「ってか、こんな動画で100万人も残っている方が驚きだな」


 動画を流しているものの、俺はすでに飽きてしまっている。

 ギルドとして動画を配信するなら、誰も落ちずにレイドボスを倒すとか、それこそ人数を活かしたノーダメージ攻略とかじゃないと人気配信者にはなれないだろう。


「……そろそろ終わりか。最後に次の動画配信の宣伝を入れるのが常識だけど、御曹司野郎はどうだ?」


 動画も終盤に差し掛かり、ギルドで戦っている割に時間の掛かったレイドボス戦が終了、最後にゴールドがアップで映し出される。


『――次の配信は三日後! 場所は深淵の森の最深部、討伐対象は始祖竜シェイルフィード! 絶対に見逃すんじゃねえぞ!』


 ……絶対に、見逃すなねぇ。


「……くくくく、三日後ってことは、今日じゃないか! それに深淵の森だと? こいつらが攻略できるとは思えないが……まあいい。目的地は決まったな!」


 今から出発すればまだ間に合う! 御曹司野郎の配信に乱入して、最悪の展開を視聴者に見せつけてやろうじゃないか!


「待っていやがれ、御曹司野郎! 今から俺の復讐を果たしに行ってやるからよ!」


 俺は嬉々としてヘッドセットを装着すると、そのままログインしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る