97.トレード

 二回目となる虹色の輝きを前に、俺は自分でも珍しいくらいに心臓をバクバクさせながら、エリザの結果を待った。

 輝きが徐々に消えていき、エリザの視線がウインドウがあるだろう場所を見つめている。

 そして、顔を上げてこちらを見た途端――パッと笑みを浮かべた。


「出ましたよ、レヴォ様!」

「……ま、マジか?」

「はい! 暗殺者用の短剣です!」

「…………やったああああぁぁっ! ありがとう、エリザ!」

「私も嬉しいです!」

「よし、よし! これでさらなる復讐の一歩が踏み出せるぞ!」


 俺はエリザに駆け寄りその手を取ると、激しく上下に動かした。

 それでも彼女は笑みを崩さず、俺の手を握り返してくれる。

 あぁ……この感動は、ソロでは絶対に味わえない嬉しさなんだろうな。


「それじゃあさっそくトレードしましょう!」

「あぁ!」

「ちょっと待ってー!」


 ……おいおい、なんで話の腰を折るんだよ、リン。


「私も神話級装備ランダムBOXを使うから、トレードを求むー!」

「「……はい?」」


 いやいや、二つのアイテムとトレードとかできないし、他に神話級装備を持っているわけでもない。

 仮にリンがここで暗殺者用装備を出したとしても、俺はエリザとのトレードを選ぶだろう。

 それが俺について来てくれている、彼女への恩返しにもなると思っているから。


「そっちにいい装備が出たとしても、俺はエリザとトレードするぞ?」

「それはいいよー」

「……い、いいのか?」

「もちろん!」

「……そ、それでは、どうして私たちのトレードを止めたのですか?」


 エリザからの当然の疑問に、リンは笑いながら答えた。


「ふっふっふー! それはねえ――次にいらない神話級装備を手に入れた時のトレード候補に入れてほしいのー!」

「「……なんで?」」


 いや、マジで意味がわからん。神話級装備のトレード候補って、何に得があるというのか。


「その代わり! 私を正式にパーティ、もしくはギルドに加入させてほしいのー!」

「……なんでそんなにギルドに入りたがるんだ? お前、元はトップランカーだろう?」

「えぇー? なんでそう思うのかなー? ってか、レヴォさんもそうでしょー?」


 俺の質問に質問で返すか。

 だが、俺はこいつのメインキャラの予想がついているし、リンの提案に乗らなくても一向にかまわない。


「俺もそうだが、ならどうだと言うんだ? お前の提案を飲む理由にはならんだろう」

「わかってるよー。だからさあ、私の神話級装備ランダムBOXから出てくる装備を見てから考えてくれないかなー? レヴォさんが装備できないものだったら、いらないで終わらせてくれて構わないからさー?」


 ……こいつ、何を企んでいるんだ? まさか、本当にギルドに入りたいだけ、ってわけじゃないよな?


「俺にばかりメリットがあり過ぎる。お前、何を企んでいるんだ?」

「もー、疑い過ぎー! リンはただ、ワンアースを楽しくプレイできたらいいだけなのー! なんだったら、私のメインキャラの名前も伝えようかー?」

「全世界ランキング10位――天下怒涛のパルルゥじゃないのか?」

「……………………ええぇぇぇぇ?」


 その反応、絶対に当たりだろうな。


「それじゃあ、エリザ。トレードを――」

「そ、そそそそ、そうだけど! だったらギルドに加入させた方がいいんじゃないかなー? セカンドキャラをパルルゥよりも強くする予定なんだよー?」


 ……こいつ、諦める気がないのか。


「よ、よーし! それじゃあ、今から神話級装備ランダムBOXを使っちゃうよ! えーい!」


 そしてリンは強行突破で神話級装備ランダムBOXを使用した。

 ……いや、違うか。勝手に使ったわけだもんな。

 というわけで、俺とエリザは虹色の光を無視しながらトレードを行った。


「おおおおぉぉいっ! こっち見てよー!」


 そんなリンの声が背中に叩きつけられたが、俺は全く気にしなかった。

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