96.レヴォを支える者

 神話級が確定しているということもあり、ランダムBOXからは虹色の輝きが溢れ出す。

 暗殺者の俺が装備できるものであることを祈り、結果が出るのを待つ。

 そして――ついに神話級装備が姿を見せた。


「……こいつは……マジかぁ」


 ……剣士用神話級武器、コキュートス。

 当然ながら性能は抜群にいいし、なんなら剣士に転職するのもありだと思う。

 だけど、違うんだよなぁ。俺はこんな装備、望んでいないんだよなぁ。


「…………競売の一択――」

「お待ちください、レヴォ様!」

「……なんだよ、エリザ」


 俺が競売に出そうと口にした直後、エリザから待ったが掛かった。

 くれと言われても、やらんぞ? 今となっては金に困ってはいないけど、ないよりはある方がいいからな。


「私も今から神話級装備ランダムBOXを使います! なので、もしも暗殺者用の装備が出ましたら、トレード致しませんか?」

「……そ、その手があったか!」


 ずっとソロで活動していたから、誰かとトレードなんて思いつかなかったぞ!


「……でも、いいのか? コキュートスもいい装備だが、それよりもいいものが出たりしたら?」

「レヴォ様が装備できるもの、気にいるものであれば問題ありません!」

「……なあ、エリザ。お前はどうしてそこまでしてくれるんだ? こう言っちゃああれだが、俺とお前は全く接点のない他人同士だろうに」


 今までの言動から、エリザが好きだったのは俺ではなくゴールドだ。

 だからこそ御曹司野郎の行動に嫌気が差していただろうし、リアルで敵対し会社まで辞めてしまっている。

 しかし、今の俺はレヴォであり、ゴールドのようなプレイは一切できない。

 それにもかかわらずついてきてくれて、さらには装備のトレードまで提案してくれた。

 ……エリザにとって、ゴールドという存在はどういうものだったのだろうか。


「……私がワンアースを始めたきっかけは、ゴールドでした」

「まあ、そういうユーザーは多いだろうな」

「私は違いますよー?」


 ……なんだろう、全く関係ないんだけど、目の前で言われるとムカつくな。


「ゴールドの動画を見て、ワンアースというゲームをプレイしたいと思うようになり、こんな風にプレイできたらどれほど楽しいだろうかと考えるようになりました」

「それなのに、御曹司野郎に加担したのか?」

「……最初は仕事のため、生きるためにと仕方なく。ですが、時間が経つにつれてこれではダメだと、ワンアースを嫌いになり、ゴールドを嫌いになり、自分を嫌いになると思ったんです」


 なんというかまあ、真面目なんだろうな、エリザは。

 自分の人生が懸かっているのだから、他人のことなんて気にしなくていいだろう。それに仕事と割り切ることもできたんじゃないのかと思ってしまう。

 ……それが、できなかったんだろうけど。


「そんな時、ゴールドギルドを攻撃するユーザーが現れました。レヴォ様です」

「俺以外にいないだろうな」

「私はピンと来ました。自分のためのきっかけになると思い、声を掛けたのです」

「自分勝手だと思わなかったのか?」

「思いました。結局のところ、私は自分のためにしか行動をしていませんから。ですが、だからこそ今ここで、そしてこれからの行動でレヴォ様に償いができればと考えているのです」


 まあ、神話級装備だけはPKをしても手に入れられないことになっている。

 これは競売に出した時の落札価格が、他の等級よりも明らかに桁が違うことから運営が配慮した結果でもある。

 もしもPKで神話級装備が手に入るとわかれば、PKが横行してしまうだろう。

 加えて譲渡もできなくなっており、これは脅しによる略奪を防ぐ、という理由があった。

 だからこそのトレードであり、行うには同じ等級でなければ神話級装備は成立しないのだ。


「……わかった。それじゃあ、俺が装備できるアイテムだったら、トレードしてくれ」

「あ、ありがとうございます、レヴォ様!」

「いや、お礼を言うべきは俺の方だろう。助かるよ、エリザ」

「――! 絶対に暗殺者用の装備を出してみせます!」


 いや、そこは運だからな? 祈って出るようなら、俺の時に出てるはずだからな?

 そんなことを考えながら、俺はエリザが神話級装備ランダムBOXを使うのを見届けた。

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