83.赤髪の……?

「……あいつ、誰だっけ?」


 俺は現在、朽ち果てたダンジョンの中で何やら作業をしているユーザーたちを後方から覗き見ている。

 その中に一人だけ見覚えのある奴がいたんだが……。


「どこで見たのか、会ったことがあるのか、全く思い出せない」


 ……まあ、赤髪のユーザーなんて腐るほどいるし、記憶にないってことはそこまで強くもない奴なんだろう。

 なら、そこまで気にする必要もないか。


「さっさと片付けて、朽ち果てたダンジョンを解放してやるか」


 俺も目的があってこっちにきているわけだし、作業中に邪魔をされたら面倒だからな。

 数は……一〇人か。見張りよりも多いが、まあ問題はないだろう。

 透明化が使えないので一人か、二人くらいは奇襲でどうにかなるが、あとは真正面からぶつかるのみだな。


「……フィーはあっちの一人を頼む。終わったら合流してくれ」

「……はいなのー」

「……頑張るのにゃ、二人とも」


 俺たちは小声で簡単なやり取りを終えると、素顔が見えないよう暗黒竜鱗の仮面を非表示から表示に変更し、物陰から一気に飛び出した。


「なんだ、てめぇら――ぐはっ!?」

「襲撃だ! 気をつけ――かはっ!?」


 まずは俺が二人を片付ける。


「エアバレット! エアカッター!」

「ぐはっ! げガっ!」


 よし、フィーも問題はなさそうだな。


「て、てめぇは! ここであったが百年目! ぶっ殺してやる!」

「……誰だ?」

「んなあっ!? 忘れたとは言わせねぇぞ、この野郎!」

「いや、忘れたんだが?」

「絶対にぶっ殺す!」


 赤髪のユーザーが何やら吠えているが……マジで思い出せない。

 だが、取り出された武器を見て、俺はようやくこいつとどこで会ったのかを思い出した。


「あーっ!」

「はっ! 思い出しやがったか!」

「イベントの時のザコ!」

「ザ、ザコだと! 俺様はゴールドギルド期待のホープ! レグゼ様だぞこらあっ!」

「いや、知らんし」


 ってか、名前は間違いなく初めて知ったんだし、名乗られても知るかって話なんだよなぁ。


「おい、てめぇら! まずはあいつからぶっ殺すぞ!」

「やれるもんならやってみろよ!」


 一対七か。……いいや、二対七だな。


「エアバースト!」

「うおおおおぉぉっ! てめぇ、後ろからとか卑怯だろうが!」


 一人に対して複数で仕掛けようとした方が卑怯だろうよ。

 まあ、どちらにしても俺が負けることはないからどちらでも構わないんだけどな。


(フィーは撹乱だ! 止めは俺が差す!)

(はいなのー!)


 フィーに念話で指示を出しながら、エアバーストで目の前に転がってきた一人を仕留めて残り六人。

 直後には二人が攻撃を仕掛けてきたが二刀流で受け流し、返す刃で胸を一突き。

 ……ほう、一人はギリギリ回避したか。残り五人。


「うおらああああ――ぐがっ!?」


 バカ正直に真正面から突っ込んできたレグゼの顔面に前蹴りを見舞ってから距離を取ると、左右から素早い刺突が繰り出されてくる。

 槍と細剣の巧みなコンビネーションだったが、俺からすれば速度が足りない。

 刺突に対してこちらも刺突で返し、全てを跳ね返していく。


「あ、あり得ないだろう!」

「こいつ、化け物か!」


 最後にはそれぞれの武器を叩き落としたあと、その場で回転斬りを放ち首を刎ねた。残り三人。


「クソがっ! 爆炎!」

「フィー」

「エアヴェール!」

「だー、畜生! どうして俺様の攻撃がこんな風の壁に防がれるんだよ!」


 そりゃお前、ステータス差だろう。

 現時点でフィーのレベルは35になっており、重点的に知能を上げている。

 レグゼは見た目からして前衛タイプ、ステータスもそれに合わせて割り振っているに違いない。

 爆炎はスキルだが、その威力は知能の高さで決まってくる。

 知能を上げているフィーと、上げていないだろうレグゼでは、まず間違いなく魔法同士のぶつかり合いで負けることはない。


「……しかし、期待のホープねぇ」


 正直なところ、こいつが成長してもトップランカーになれるとは思えない。

 良い装備で身を固めればある程度の位置までは来れるだろうが、世界のトップには絶対になれないだろう。先ほどの前蹴りを食らっているようではな。


「それよりも……うーん、なんでだ?」


 俺はレグゼよりももう一人、殺すつもりで放った刺突を間一髪で回避した青髪のユーザーが気になっていた。


「……あいつの方が、強くないか?」


 そんなことを考えながら、レグゼと青髪を残してもう一人をログアウトさせた。

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