82.朽ち果てたダンジョン

 ――朽ち果てたダンジョン、それは本来の名前ではない。

 ただ、ユーザーたちが何度も、何度も何度も、足を運び過ぎてボロボロになってしまったからこそ、俺たちの中で呼ばれ始めた別称でもある。

 ならば何故、別称で呼ばれることになったのかというと、それはここでしか取れない素材が、一時期貴重なアイテムを作るのに必須な素材となっていたからだ。


「ただ、別の素材で代用できるようになってからは足を運ぶユーザーも少なくなっていったって聞いていたんだが……どうして今になってゴールドギルドが?」


 俺の情報では、他に貴重なアイテムが取れたということも聞いたことがないんだが……最近のアップデートで変わったことでもあったのか?


「……まあ、中に入って見ればわかるか」


 今の俺は茂みに隠れながら朽ち果てたダンジョンの入り口を見ている。

 そこには五人のユーザーが立っており、ゴールドギルドが占領していることを知らなかった別のユーザーを追い払っている。


「ふざけんな! 占領とか、知らねえよ!」

「なんだ、ゴールドギルドに歯向かうってのか?」


 口論になったプレイヤーには武器を抜いて威嚇しており、実際に襲い掛かられている者もいた。

 これは、早めにお仕置きが必要なようだ。


「目の前で誰かが犠牲になる前に、あいつらは片付けておくか」


 真正面から戦っても勝つ自信はあるが、あとから追い回されても面倒だ。というわけで――


「透明化、発動」


 俺は隠れたままで透明化を発動後、フィーにエアヴェールを掛けてもらう。

 そしてすぐに動き出すと、まずは五人の中で一番離れている奴の首を捌いて消えてもらった。

 これで残りは四人だ。


「ったく、なんでゴールドギルドにたてつく奴らが多いんだ?」

「まあ、前回のギルド対抗イベントのせいだろうなぁ」

「あれなぁ。誰かが俺たちの邪魔をしたって話だろう?」

「でも、フェゴールさんが裏切ったってのもあったんじゃねぇか?」


 ……ふむ、どうやらゴールドギルドの中ではDRギルドが邪魔をしていた、という話にはなっていないようだ。

 まあ、一人ギルドに邪魔されて負けました、とは認めにくいだろうし、考えても思いつかないんだろうな。


「……ってか、あいつ遅くないか?」

「見回りっつっても、そろそろ戻って来てもいい頃だろう」


 おっと、どうやらさっき倒した奴が戻って来ないのを疑い始めたようだ。

 これは早めに消えてもらう必要がありそうだな。


「どこで油を売っていやがるんだ?」

「俺が見てくるから、こっちは頼むぞ」

「「「へーい」」」


 ありがたいことに、どうやらまた一人だけ別行動してくれるみたいだ。

 ある程度離れたところでこいつをサクッと……よし、倒したぞ。

 そんで残り三人は一気に――


「ぐはっ!」

「な、なんだ――がっ!?」

「おい! くそっ、なんだ、いったい何がおき――でばっ!?」


 ……なんだ、こいつら。めっちゃ弱いじゃないか。

 マジでこんな奴らがゴールドギルドのギルメンなのか? だとしたら、元ゴールドとしてもなんというか、悲しくなってくるんだが。

 ……もしかして、フェゴール以外にも抜けたランカーがいたのか?

 もしも質を数で補おうとしたのであれば、それはおそらく最悪の選択肢だと思う。

 ワンアースのランカーたちは一騎当千の実力を持っている。

 そんな相手に下位ユーザーをどれだけぶつけても勝てるはずがない。

 御曹司野郎が一からユーザーを育てているとか? ……それはさすがに考え過ぎか。何せゴールドのアカウントを乗っ取った奴なんだからな。


「まあ、俺としてはありがたいことだけどな」


 透明化はもう必要ないと判断してそう呟くと、俺の肉体に色が戻ってきた。


「このダンジョンに入るのかにゃ?」

「あぁ。この前のイベントで懲りていないみたいだからな、ここでもう一度叩き潰しておくのもありだろう」

「フィーも頑張るのー!」


 さーて、どんな奴らが集まっているのやら。

 まあ、誰であれぶった切ってやるだけだがな!

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